パースの自宅は1000平方メートルもある古い家の裏庭に建てられた一戸建てだ。裏庭と言っても、建てる前に前の道路に出るためのドライブウェイが作られていて、完全に独立した一戸建てで塀で「前の家」とは隔てられている。
ちなみに、オーストラリアではこうした昔からの大きな敷地の裏庭に建てられた家が多く、道路に面した家のほうをFront House(前の家)Rear House(裏の家)という言い方をする。
3ヶ月ほど前にこの「前の家」に3人家族が引っ越してきた。40代のオーストラリア人夫婦と韓国から直接養子にした6歳の男の子だ。引っ越してきたばかりのころ挨拶にやってきたので、こちらもお茶に呼び何となく少しオツキアイが始まった。早朝や夕方になると「コーッコッコッコッコ…」という静かな鳴き声が聞こえることから、雌鳥を1羽飼っていることもわかった。毎朝新鮮な目玉焼きが食べられていいねえ、と男の子に言ったら満足そうな笑顔が返ってきた。
前置きが長くなったが、先週、帰宅すると家のドアの真ん前にカゴが置かれ、大きな卵が8つ。さっそくお礼に自家製和風サラダドレッシングの瓶を持っていったが…実はその前日に卵を6つ買っていた。いや、嬉しいけどどうしよう。
そんなわけで、ここ数日朝は生卵かけゴハン、目玉焼き、ゆで卵、だし巻き卵にしたが、まだ沢山残っている。こんな新鮮な卵を何日も置いておいてまずくする手はない。
では、フリタータだ。
Frittataというのはイタリアの卵料理、それもフライパンで作るオープンオムレツと言ってもいい。これなら沢山卵を使うことができる。スモークサーモンもジャガイモもハーブも冷凍のグリーンピースもすでに買い置きしてあるし。
作り方は、わたしがささっと作ってしまうくらいなのだから難しいわけもない。朝からそうしようと思っていたので、帰宅したらすぐにジャガイモを水から茹で始めた。その間に、洋服を着替え、化粧をつるりんと落とし、猫たちの餌をやり、トイレを片づけ、昨日の白ワインをグラスの注ぎ、テレビのニュースをつけ、右手にワイングラス左手に猫じゃらしを持ち、あいちゃんとすーちゃんをからかっていたら、ジャガイモなんぞすぐに茹で上がってスライスできるぐらいまで冷めている。
大きくて深いフライパン(実は直径28cmタジーン鍋の蓋をとっただけ)にオリーブオイルをたらし、まずスライスしたジャガイモを敷き、グリーンピースをパラパラと撒き、サーモンを載せ、ディルをふりかける。塩コショウして溶いた卵を8個分、その半分量上から注ぎ、ほんの少し待って卵が端から固まっていくのを見てから、またジャガイモから始めてディルまでを繰り返す。最後の残りの卵を注いで、しばらく待つ。最後はオーブンのグリルで一気に表面をカリカリにする。
拍子抜けするくらい簡単だが、これが地味に美味い。
付け合せは先週茹でて冷凍しておいたインゲンと缶詰のカネリーニという白豆に、エシャロットの薄切りを加え、シンプルなヴィネグレットで和えただけ。
卵を8個も使った巨大なフリッタータ。ひとりで食べるわけにもいかないので、さっきメールを書いて同僚たちに「明日はランチを持って来なくてもいいよ」と念を押した。ジャガイモを使っているので、冷凍できないからだ。皆で食べるほうがこういうものは美味しいんだよ、実は。