刺身は正月にイヤというほど食べたが、そう言えば、まだ寿司を食べていない。母とふたりきりだったので、近所の寿司屋からの出前を注文した。
「裏の**ですからね」と母が電話で念を押す。実家の苗字は非常に珍しいので、あまり間違われることがないが、去年実際にあったらしい。出前新米のオニイサンが、同じ苗字の違う家に出前を持っていってしまったのだ。以来、寿司屋にとって「裏の**さん」が実家で「下の**さん」がもうひとつの家になった。
「まいどー」の声とともに、玄関のチャイムがピンポーンと鳴る。
「このごろの出前は、勝手口ってもんを知らないんだから」と、母がブツブツ言いながら立ち上がった。