夜中に鳴り出すアラームほど、不気味なものはない。
アラームと言っても、かわいい目覚まし時計のアラームではなく家についている警報機のことだ。自分の家ではなく、何軒か先の家の警報機が夜中の二時に鳴り出した。誰も家にいないらしく、十分ほども鳴り止まない。泥棒か、と思って震え上がったがパトカーの来る気配もない。
わたしの家は、引っ越してから間もない去年の十月二十七日にも書いたが、「要塞」である。アラームをかけているときには、高らかに(と言うより耳をつんざくほどの)鳴り響く騒音なしで、わたしの家に侵入することは不可能だ。鳴り響いてもまだだれもアラームを止めないときには、登録してある全ての電話番号に連絡が行く。それでも誰も電話を取らなければ、武装した警備員がわたしの家の鍵を持って確認にやって来る。
ところが、普通の家ではそこまでしているところはあまりないから、警報アラームが鳴り響くだけだ。そりゃあものすごい音だから、とてもじゃないがそのままゆっくり居座って盗むなんてことができるわけもない。しかし、夜中だろうと何だろうと、留守の家でアラームをオフにするひとはもちろんいない。
かくして、わたしを含めて、半径五十メートル以内の家でぐっすり寝ている隣人たちは皆起こされてしまったらしい。それが証拠に、外にまで(たぶんパジャマ姿なのだろう)出てきて立ち話をしている隣人たちの声が聞こえる。
寝そびれてしまったわたしは、今日一日中非常に機嫌が悪い。しかし、機嫌が悪いと言っても腹は減る。
こういうときはパスタだね。週末に買っておいたカペレッティがあるから、炭水化物を摂取してイライラ頭にたまっている血流を胃に戻そう。
湯を沸かしている間にトマトソースを出そうとして、冷凍庫にあった最後の残りをこないだ使ってしまったことを思い出した。また作らなきゃなあ。貯蔵室を開けると市販のトマトソースならあったので、ほっとした。持つべきものはデカイ食料貯蔵室だ。
カペレッティはイタリア語で「小さな帽子」という意味だ。ちょうどツバ広の帽子を伏せたような形をしている。わたしがいつも買うのはイタリア食品店の手作りだが、ここのは中身によってパスタの色が違う。ペストとチーズのものは、バジリコがたくさん入っていて薄い緑色をしているし、牛肉のミンチ入りは、薄い茶色をしている。そして、今回わたしが買ったのは赤ピーマン、マッシュルーム、モッツラレーラチーズ入りの薄い赤色のもの。
茹でて市販のソースをかけイタリアンパセリを散らしただけだが、評判の店で買った手作りパスタは実に美味しい。ベビーサラダをちぎったものを添えて、眉間の皺用に辛口のシャルドネを一杯だけ。いや、ひょっとするともう一杯くらい。