がびのテラス - 軽妙にして辛辣、独断にして優雅に

バイク事故で踏んだり蹴ったり

友達のボーイフレンドがバイク事故で大怪我をしたというので、見舞いに行ってきた。

両手首、両足首の骨折で、見るも無残な状態である。かろうじて指だけは動かせる左手のそばにボタンがあり、何か用があるときに看護婦を呼び出せるようになっている。三日前からすでに3度手術を受け、明日はまた手術だと言う。粉々になった右手首、両足首の骨は完治するまでに数ヶ月はかかるらしい。

三日前、田舎道を時速80km(制限速度内)で走っていた彼は、対向車線上の彼方でスピードをあげる2台のバイクを目撃した。そして、次の瞬間そのうちの一台が坂のカーブを曲がりきれずに転倒、彼の車線にそのスピードのまますべりこんできたのだ。避けることもできず、そのバイクに正面衝突した彼は、バイクごと空中に放り上げられて足から地面にたたきつけられた。ハンドルを握っていた両手首はその衝撃で骨折したのだ。

事故を起こした当の対向車線バイクの運転手は、軽い擦り傷だけである。そして、両手両足を骨折してもまだ意識だけはあった彼が、苦しい息の下から「何てことをしてくれるんだ…」とうめいたとき、立ち上がって彼を見下ろしていたバイクの運転手はこう言った。
「いやいや、バイクに乗るんだったら、当然こういう事態が起こることぐらい覚悟してなくっちゃいけねえよ」

身体さえ動かせたらそのアホウを叩きのめしてやりたかったよ、とベッドの彼は悔しそうに呟いた。事故を起こしておきながら、なんともひどいヤツがいたものである。
加えて、プライベート保険に入っていなかったために、もちろん病院では四人部屋だ。四つのベッドは全て埋まっているが、そのうちのひとつのベッドからしばらくしてものすごい大音量のイビキが聞こえてきた。わたしたちの話す声が聞こえなくなるほどである。
「そうなんだよ。今ちょっと外に出ているもうひとりの男も、すげえイビキをかくんだ。夜中なんか二人で大合唱だよ。だから、僕は麻酔がさめたらもう眠れないんだ」
ほとんど全身ギプスでぐるぐる巻きの彼は、こう言って哀しそうにため息をついた。

踏んだり蹴ったりとは、まさにこのことである。

 

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