ここ何日かのバンコク・ポストを先ほど読んだのだが、12日に記した「タイ当局と外国人チームの軋轢」の実態がやっと系統だってきた。読んでいるわたしでさえ最初は何が問題なのかわからなかったので、簡単にまとめてみよう。(資料としては、1月12日、1月12日、1月13日、1月14日、1月15日のバンコク・ポストを参照)
タイでは数少ない(と言うより、全国で50人に満たない)検死医ポーンティップ女史は、タイ法務省直轄の中央科学捜査研究所次長という肩書きで活躍している。検死、鑑識という言葉が広く一般的に知られるようになったのは、彼女の功績でもあるのだ。タイ警察官の殺人行為などを検死の立場から暴いてしたり、有名な殺人事件を解決したり、それどころか彼女を主人公にした映画まで製作され、その奇抜なヘアスタイル(カラフルでつんつんに固めてある)で、大物タイマフィアが彼女の首に500万バーツ払うという噂もある大変な有名人だ。自身も癌に冒されているというのに、南部イスラム教徒暴動でも検死で活躍し、「死体のあるところ、ポーンティップ女史の姿あり」と言われる。
今回も、津波災害の直後にタクア・パ入りして、遺体の身元確認とスタッフの指揮に当たり、「被害者の遺体を一刻も早く彼らの家に返すのがわたしの使命」と日夜精力的に働いてきた。彼女と彼女のチームの鑑識が国際的基準に達していない、という言葉も聞かれてはいたが、何しろ災害後の混乱の中で、少ないスタッフと足りない設備に苦しみながらここまで活動してきたことは、賞賛に値する。現在のところ、遺体が冷凍安置されているのは、いずれも彼女が組織したタクア・パ地区にある3つの寺(の敷地)だ。
しかし、今回の遺体は3000体以上、しかも外国人観光客が半数以上を占める。詳細で膨大な身元確認のためのデータファイルの作成が必要とされるのは明らかだ。
身元確認は、post mortem(死後)とante mortem(生前)というふたつのデータをもとに行われる。前者は遺体を詳細に調査し、歯型、DNA、その他の特徴をまとめたデータだ。今回の場合、プーケット(またはタクア・パ地区)で採取したサンプルが、タイで直接、あるいは中国に送られて解析される。後者は遺体となる「前」のデータ、つまり生前彼らの使ったブラシ、歯ブラシからのDNAサンプル、または歯科医に残された歯型データ、そして近い血縁の者から採取するDNAサンプルなどだ。そしてこれらは、様々な情報から、津波被害に遭遇したと思われるひとびと、またはそれらの地域にいたとみなされその後行方不明のひとびと、そして家族からの問い合わせにより、各々の国において、直轄の警察が収集する。
これだけの国際的なデータシステム構築は、もはやポーンティップ女史と彼女の率いる鑑識チームには不可能だ。そして出てきたのが、インターポール(国際刑事警察機構)。世界二十ヶ国からの専門家60名を集め、プーケットにDVIC(Desaster Victim Identification Centre,津波犠牲者身元確認センター)を設立した。上記のように収集された膨大な PM(Post Mortem)と AM(Ante Mortem)のデータは DVICの中央データシステムに収められ、最終的にここで照合が行われることになったのだ。
ここまでは、いい。
しかし、最初にDVCIが設立されることになったとき、インターポールはもちろんタイ警察に接触した。喜んだのはタイ警察だ。(一説によると、警察だって彼女の首には500万バーツ出したいほど、彼女を嫌っているらしい。閑話休題)
ポーンティップ女史によってさんざん警察官の殺人などの不祥事を暴き立てられた彼らは、これをいい機会と見て、ポーンティップ女史に連絡することなく話を進め、結局1月12日のDVIC記者会見となった。要するに、ポーンティップ女史にとって、この記者会見は青天の霹靂だったわけだ。今まで、全てをまかされて寝る時間も惜しんで身元確認に当たってきたのに、いきなり知らないうちにDVICという新しい身元確認センターが設立され、彼女が集めた全てのデータをプーケットに提出せよ、と言う。そして、3つの寺に安置された遺体を全てプーケットに移動するべきだ、と言う。
そこで女史は、「要請を受ければ、データをプーケットに渡す用意はある。しかし、冷凍安置されてるコンテナをプーケットに移動するのは、反対。それだけの作業をするだけの根拠がない。それに、この三つの寺を総括するわたしたちの身元確認センターは災害発生時からここにあるのだから。警察が協力して設立したDVICのことなど聞いていない」と反論した。
当然のごとく、警察のほうは「なぜ彼女が協力しないのかわからない。これはタイ人だけの身元確認ではないのだ」と渋い顔。
法務省を無視してインターポールと接触した警察、そしてDVIC設立の際無視され、津波から現在までの活動とデータを完全に横取りされた形になるポーンティップ女史。
事はこれだけで収まらず、彼女が属する法務省と警察の対立に発展するような気配を見せている。
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ポーンティップさんに協力していた女子大生ボランティアが誘拐されましたね。
解放後、「死体の鑑定について尋問された。」とのこと。
いったい誰が何故”そんなこと”を知りたがったのでしょう?
(公然の秘密って感じですが)
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