こちらの子供たちは、日本人の同世代に比べるとはるかに体が大きく、実際の年よりいくつか上に見える。9年生(13歳から14歳)のライアンも、わたしよ りアタマひとつ大きく幅も倍はある。声変わりもしているし、ヒゲもうっすらと生えている。ぶすっと座っていたら、圧倒されるような存在感なのだ。かろうじ てそのすべすべの肌が、彼の本当の世代をうかがわせる。しかし、哀しいかな、脳の発達はその他の生物学的発達に比べて少々劣っていると言わざるをえない。 あまり日本語が好きでもないし、やる気もない。言われれば渋々練習問題にとりかかるが、それも決して最後の問題まで行き着くことはない。そして、ほとんど 間違えている。
昨日、前回の日本里帰りの際に近くの店で仕入れた「動物ハンコ」があることを、思い出した。今日さっそくそれを学校に持っ ていって、練習問題をできた子供の用紙にそれをぽんと押す。思いのほかの反響で、皆競って問題を終わらせようとしているのはやはり子供らしいなあ、と今更 ながら微笑んでしまった。
ところが、だ。ライアンも計算機までバッグから持ち出し、真剣な顔をして問題を解いているではないか。漢数字の練習用に と、わたしが自分で作った問題用紙だ。横の友達にも答えを確かめているのを、見ないふりして観察していたら、最後に勢いよく「はいっ、せんせいっ」と手を 上げた。ちょっと間違えているところを訂正して、ハンコをぽんと押してあげたら、「わーーーいっ、犬だあああっ」と大喜びの大ハシャギ。こちらがびっくり するほどの、手放しの喜びようだ。そりゃあかわいいが、どうということのない犬のイラストの小さなハンコである。
身体ばかり大きくても、やはり13歳なのだ。改めて、彼に向かって「よくできましたね」とにっこり笑いかけた。