がびのテラス - 軽妙にして辛辣、独断にして優雅に

スクムビット・ソイ20の Chesa Swiss Cuisine

チェーサ(CHESA)はわたしがまだバンコクに住んでいたころからある老舗のスイスレストランだ。ここ20年ほどの間にポツポツと出た他のスイスレストランは皆店をたたんでしまったが、このチェーサだけはずっとスイス人たちの間で安定した評判の伝統的な料理を供している。

スイスというとチョコレートとチーズフォンデュぐらいしか日本では知られていないが、バラエティーに飛んだスイス料理はバンコクでは競争率の高いフランス料理やイタリア料理にも引けを取らない。その料理の洗練された味と評判は、共同経営者でもあるシェフのトーマスの腕に依るところが大きい。

今回は知人の招待でディナーを楽しむことになった。チェーサに来るのは5年ぶりぐらいか。シェフのトーマスはフロア担当でもあり、テーブルを回りながら客に挨拶をし、親しいひとたちと気軽におしゃべりにも参加する。

わたしは最初アペリティフとしてカンパリソーダをもらった。口当たりがよく食欲増進にもなるのだ。
さて、最初に出てきたのはサラダ。バターヘッドレタスと呼ばれる柔らかいサラダ菜にスイスのスモークした生ハム。ハーゼルナッツの香りがぷんと鼻をつく。ドレッシングは伝統的なビネグレットソースだ。

次に出てきたのは「ミニ・チーズ・フォンデュ」。
小さなカクロン(caquelon、フォンデュなどに使う厚い陶器製の鍋)には溶けたミックスチーズのフォンデュ、そして隣には黒パン、白パン、野菜各種が添えてある。普通は火にかけられた大きなカクロンを囲んで皆でパンなどを浸して食べるが、今回のミニフォンデュはコース料理の一環としてひとり分ずつのセッティングになっている。小さなカクロンがかわいい。

そして、ポルチーニ茸のカプチーノ。泡立てたクリームで中が見えないが、これは温かいスープだ。ポルチーニの香りが高くクリーミィなスープをそのままカップから飲むようになっている。スプーンはついていない。

メインはシャトーブリアンステーキ(Chateaubriand)。シャトーブリアンカットと呼ばれるテンダーロインの分厚いステーキ(ほとんどローストビーフほど厚い)をスライスしてある。様々な野菜にマッシュドポテト、そしてもちろんねっとりとしたベアルネーズソースが添えてある。ヨーロッパ、特にスイスではこうしたシャトーブリアンが会食では好まれる。

4人いた会食テーブルには、ミディアムレア(もちろんわたし)、ミディアム、ウェルダンという全部違う焼き方の注文になり、大丈夫かなと思ったが…場所によって焼き方を変えたとみえて、きちんと三種類のカットが大皿に並んでいてビックリした。これはやはりトーマスの腕だなあ。完璧なミディアムレアの柔らかく上質な肉だった。

そろそろお腹がくちくなってきたと思ったら、今度はデザートだ。ラズベリーシャーベットにラズベリー、ブルーベリー、イチゴなどが載せられている。さっぱりとしたさわやかなデザートだった。

普通だったらもっと手の込んだ重いデザートになるはずだが、これには理由があった。最後に出てきたのがテット・ド・モワン(Tête de Moine)というスイスチーズだったからだ。フランス語では文字通り「坊さんの頭」だが、これは12世紀あたりまでスイスの修道院では外からの物品購入の際にチーズで支払っていたことに端を発する。

まさかバンコクでこの1キロ近いテット・ド・モワンを見られるとは。思わず「わあ」と声が出てしまった。わたしはこれが大好物だったのだ。懐かしい。

テット・ド・モワンには特別なナイフがある。まず木製の台にチーズを置き、真ん中にステンレス棒を刺して固定させる。次にハンドルのついたナイフをチーズに水平になるように置く。そのハンドルを回して薄く削りとるのだ。こうするとセミハードチーズのテット・ド・モワンは花びらのように薄くヒダを揃えて空気に触れ、そのアロマをかもしだすのだ。口に入れるとねっとりと、しかも舌を刺す濃いチーズが溶け始める。ああ、至福の瞬間。

このテット・ド・モワンはメニューにはない特別注文だったらしい。もう一度試してみたくてネットのメニューをチェックしてみたが、それらしいチーズはなかったのだ。残念。

今回は特別メニューだったが、ほかにも定番のスイス料理が充実している。チーズ料理ではフォンデュのほかにラクレットもあるし、またチーズフォンデュの種類もいくつかあって楽しめる。
メニューを見ていたら、これもあれもと何だかまた色々と食べたくなってしまい、こりゃ12月に戻ったときにもまた行ってしまいそうだなと思った。

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