がびのテラス - 軽妙にして辛辣、独断にして優雅に

クリスマス・イブの小さなローストチキン、Mistkratzerli

「クリスマスイブは独り身にはツライ」そうだが、それはもちろん「イブは恋人の夜」みたいなイベントにしてしまった日本だけの話。オーストラリアでは12月25日のランチとそれに続く「ダラダラ飲み」が普通だ。家族だけだったり、親戚も呼んだり、または仲のよい友達と集まったり。スイスでも同じようなものだった。つまり日本の元旦みたいなものだ。イブは夜教会のミサに行くけれど、日本だって大晦日に神社やお寺に行くのだから、やることはよく似ている。

そんな12月24日の晩。
バンコクのレストランやホテルは、このときとばかり「クリスマスディナー」のコースメニューのみとなり、七面鳥やらハムやらの伝統的なメインを供する。

わたしもバンコクに住んでいたときには、毎年ビジネス仲間を沢山呼んで6キロ前後の七面鳥を焼いた。ただし、どんなに工夫してみても七面鳥自体はどちらかというと脂身の少ない大味の肉で、まあ年中行事に組み込まれたメニューだから仕方なく作っていたが、わたしはあまり好きではなかった。

だから、もう知るひともあまりいなくなったバンコクのクリスマスはチキンで祝うことにしている。
ところが先程いつものガイジン用スーパーに行ったら、丸ごとのものはとても小さなものしかない。ガイジンたちは皆ターキーの半身や大きなハムをを購入していて、鶏肉売り場になど見向きもしない。そのせいかな、と思ったが一応「これは雄?」と訊いてみた。頷くので、じゃあMistkratzerliだな、ということで2羽丸ごと購入。

ミストクラッツェルリというのは、スイスドイツ語で650グラム以下の雄鶏のことだ。普通、雄鶏はエサを与えても雌鶏のように大きく太ることはない。だから、スイスなどでは若いうちに出荷してしまう。これがミストクラッツェルリだ。小さいけれど、身は引き締まっていてなかなか味わい深い。

まず、詰め物だ…と思ったら、材料を何も買ってこなかったことに気づいた。今からまた外に出るのもめんどくさい。冷蔵庫にあるのは炒めようと思って買っておいたブナシメジが一袋のみ。あとは家にあるもので何とかなるだろうと、いつものように適当に作り始めた。

玉ねぎはみじん切り、ニンニクは薄くスライスして、たっぷりのオリーブオイルで炒める。キャベツも冷蔵庫にあったので、これも細切れにして入れてしまう。しんなりしたらシメジのざく切りを加えて塩コショウ、新鮮なタイムをぱらぱらと揉み入れ、レモンの皮をガリガリと削る。
冷めたらパン粉をふたつかみほど、そして本当ならパインナッツだがこれもないのでヒマワリの実で代用。卵をひとつ割り入れてざっくり混ぜたら、詰め物のできあがりだ。

鶏は洗って水を切り、指で胸の身と皮の間に指をいれてそっとポケットを作る。ここに先程の詰め物をポケットに穴を開けないように詰める。残った詰め物は丸めて野菜と一緒に焼いてしまう。鶏肉にレモンの皮、ナツメグ、パプリカ、塩、コショウをたっぷりと塗りたくり、オリーブオイルをかけて、最後にレモンとタイムを穴に詰めて出来上がり。鶏自体が小さいので、180℃のオーブンで1時間とちょっと焼いた。焼きあがったら、もちろんアルミホイルで包んで10分ほど寝かせる。

小さいほうのミストクラッツェルリは、焼いているうちに焦げた皮に大きな穴が空いてしまい、中の詰め物が丸見え。これは予期していなかった。普通の丸ごとチキンの皮はもっと厚いので、焦げても皮が破けることはない。
皮と身の間に詰め物を入れるのは、もっと味がよく染みてくれるからだ。普通はぽっかり空いた穴にぎゅうぎゅうと詰めるが、わたしはこちらのほうが好き。

あとは時間差でオーブンに入れた、ローズマリー風味のジャガイモとニンジン、ズッキーニ、エシャロットなどを付け合わせにした。

実はミストクラッツェルリを焼くのは初めてなので心配だったが、意外や意外、ジューシーに仕上がった。さすがに肉の量は少ないが、骨についた弾力のある肉の味が切り身で買う鶏肉より格段に美味しい。いい加減に作った詰め物も歯ざわりがよく、パン粉ばかりの市販の詰め物など買わないほうがいいと思った。

しかし、二人だったら一羽で十分。二つ目の丸焼きはそのまま残ってしまった。これは明日の昼にコールドチキンとしてサラダとともに食べよう。そのあとは、サンドイッチの具にしてもいい。

そして、最後にブッシュ・ド・ノエル。
買い物に行ったときに無性に食べたくなり、日系のベーカリーで求めた。

日本のケーキは甘さ控えめで、あっさりとしている。オーストラリアのこれでもかというほどの砂糖の量とは比べものにならない、懐かしい味だ。もっとも、オーストラリア人たちに言わせると「なんか甘くないね」となるので、これはひとそれぞれ、国それぞれなのかもしれない。

住宅街のクリスマス・イブはしんとしていて、時々通る車とバイクの音しかしない。今ごろホテルやレストランでは大騒ぎでクリスマスソングが鳴り響いていることだろうが、食後のキルシュをちびちびとやりながら、実はこのブログの名前ともなっている「がびのテラス」で風に吹かれるのも楽しいものだ。

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