パースの図書館は、大きなガラスの入り口をはいると、すぐ横に古本コーナーがある。
本棚もあるにはあるが、そこかしこに山積みになった古本は、皆図書館からの処分品なのである。全てコインで買える値段の本だが、普段はあまり興味深い本は見つからない。
と ころが今日は、延々と続く英語の背表紙の中に、ひょこっと日本語が浮かんで消えた。あらと思ってもう一度引き返すと、そこにあったのはみず色の表紙の「ノ ンちゃん、雲に乗る」。石井桃子の古典的児童書だ。表紙の扉を開いてみると、そこにはまだ図書カードや、貸し出しカードがついたままである。85年購入 で、実に様々なスタンプとひとのサインが並んでいる。高校や大学の図書館に直接貸し出された形跡もある。15年以上たったにしてはまだまだきれいなその本 を、日本語学習のために一生懸命読んだ学生もいたのだろうか。
わずかな金額と引き換えに、わたしのものになったその小さなみず色の本は、小学校の ときに読んだきりだ。だから、細部は覚えていない。ぱらぱらとめくると、小学校の図書館の匂いがした。そして今はあまり見かけない活字も、ぼろぼろになる まで読んだ同じ時代の児童書と同じもので、クリーム色のすべらかな紙の上で、優しく丸みをおびて光っていた。
懐かしくて懐かしくて、そうっと触れてみる。