がびのテラス - 軽妙にして辛辣、独断にして優雅に

なぐさめる犬たち

夜7時前にテレビをつけるという習慣がないので、その時間帯にどんな番組があるのかも知らなかった。ニュースでもどこぞでやっていないかな、と思ってつけたテレビだったが、いきなり犬の哀しげな眼に出くわした。
イ ギリスからの番組で、動物レスキューのひとたちと動物病院のドキュメンタリらしい。その雑種犬はすでに12歳、心臓肥大で弱っているが、飼い主もこれまた たいそう御年を召した殿方だ。薬の飲ませ方が下手なので、犬がいつも吐き出してしまい、そのせいでますます具合が悪くなっているらしい。「私のそばからコ イツがいなくなるなんて、決して考えたくないんです」と言って涙をほろりとこぼした主人に、それまで診察台の上で緊張から固くなっていた犬が、伸び上がっ て彼の顔をなめた。
どうして犬は、ひとの涙がわかるのだろう。テレビで見たからではなく、実際にわたしが去年亡くした愛犬も、やはりわたしが涙を 流すとそばから離れなかった。普段はそんな習慣のない犬が、飼い主の涙を見ると伸び上がってそれをなめとろうとする。わたしが顔を洗ったときや汗をかいた ときには、知らん顔の犬だったのに。

わたしのいないバンコクで、心臓肥大を患った13歳の愛犬は病院でひっそりと息をひきとった。そしてその日から、すでに1年以上が過ぎようとしている。

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