他の教師たちは学校から貸切バスが出たのだが、わたしは自宅から市内無料巡回バスで5分後にはシティ南部の競技場で学校の旗と同僚たちに合流。その後もど んどんと教師たちが集まり、そこから歩いて20分ほどの州議事堂に着いたときにはすでに5000人に達していた。10年ぶりだという西豪州公立学校組合の 1日ストライキである。
わたしにとっては、実に生まれて初めてのスト参加だ。
初めて働いたスイスでは労働組合そのものが存在しなかったし、タイではすでに管理職だったからである。
普 通のカッコで行ったわたしと違い、他のひとびとは慣れているのか完全装備だ。パースの変わりやすい天気を考慮して、帽子、傘、ミネラルウォーターのボト ル、軽いスナックを詰めたリュックサックを背中にしょい、足元はもちろん運動靴。そしてバナーをかかげたり、プラカードを高く上げているひとたちも多い。 ウチの学校からも、大きな校旗に太鼓と笛が出ていた。市内中心部の車道を警察のエスコートで歩くのは何とも言えない妙な気分だが、反対車線からクラクショ ンを鳴らして声援するひとたちもいる。工事中のビルからはヘルメットをかぶった労働者が大勢出てきて、これまた声援を送る。ビックリ目とぽかんと開いた口 で見送る日本人観光客もいる。
わたしは密かにお祭り気分でワクワクしてしまったが、実際のところ州教育相の提示した教師給与増額「来年だ け3%増」は、組合の要求「3年で30%増」を大きく下回る。それどころか、州政府はその後の組合との交渉を拒否し「教師がストやるとは何事か」と逆に糾 弾したため、状況はこじれる一方なのだ。低賃金と重労働に新卒教師の30%が5年以内に完全に教職から去るという現実は、西豪州の教師不足に拍車をかけて いるのだが、教育にあまり関心のない豪州白人気質はそうそう変えられない。
教師になって2年目のわたしも、フルタイムとは言え今だに貯金とサイドビジネスのお世話になっているのだ。これじゃあ若い教師たちはやめたくなるよなあ。
写真は、スワン川をのぞむ州議事堂の前に集まった公立学校教師たち。