わたしは大学生になっても料理ひとつしたことのないオンナだった。味噌汁さえ作れなかった。寿司酢が酢だけじゃないということさえ知らなかった。
それが、何の因果かそのままずっと海外暮らしとなり、オカアサンが側にいないことに気づいた。つまり、それは自分で作らなければ食べたいものさえ食べられないという重大な発見だった。何とか見よう見まねで作り始め、ひとからもレシピをもらい、どうしても食べたいとなったら納豆もウドンも漬物も作った。そのうちに作れるものも増え、アレンジしたり、ちょっと聞きかじったことを試してみたりするようになった。
測らなければ作れないパンやケーキなどはそれなりにきちんと計量したが、それ以外は昔からずっと人差し指か小さじで味見をしながら作るイイカゲンな料理だ。
焼肉のたれはスイスにいたころにもよく作った。ありとあらゆるものをブチ込むので、レシピは?と言われても使った材料しか数えられない。今日作ったのは、そのころからの材料、つまり「醤油、味噌、砂糖、酒、蜂蜜、林檎、生姜、ニンニク、ごま」だ。これを煮切ってから使う。分量は…知らない。液体でないものはすりおろしている。しめじと長ネギは同じたれで和えてから、さっと炒めた。
一汁三菜なので、これに余っていたしらすをごま油でカリカリにしてからキュウリと大根に和え、マヨネーズを加えてしばらく冷蔵庫で冷やした。もうひとつは、桃太郎と呼ばれる生食用のちょいと美味しいトマトにかつお節をふりかけて醤油をたらり。味噌汁は、油揚げとワカメで。
大したものではないけれど、このところ続いてしまったドドンと胃に重い西洋料理のあとなので、ちょっとほっとする味だ。パースにいるときには、どうも時間がなくて一汁三菜というより二菜で手早く作ってしまうほうが多い。和食のいいところはどれも違った味が愉しめることなんだけれど、いかにせん、15分で作って15分で食べて採点しなきゃあなどという普段の生活では無理かもしれない。