「ただのタマゴヤキじゃーん」と言われればそれまでなんだけれど、食べると違う。
ずいぶん昔スイスに住んでいたとき、テレビで「卵製造工場」の鶏たちがどんな扱いを受けているのかを見たことがある。棚にぎゅうぎゅうに押し込まれた鶏たちは、生まれてから一度も外に出たことがない。サイズも、棚に押し込むために改良されてかなり小さくなっているが、卵だけは大きく産めるようにしてある。その棚が大きな工場内に果てしなく続いているのを見たら、二度とそういう卵は買うまい、と思った。
歩いて五分ほどの農家では鶏が放し飼いにされ、入り口には木のキレッパシに下手糞な字で「産みたての卵、あります」と記されていた。週末になると、若かったわたしはテクテクと歩いてそこまで買いに行ったものだ。
二十年前のスイスは、それでもスーパーでさえFreilandhaltungと記された卵が売られていた。確かに普通の卵より高かったが、それでもたくさんの人たちがその卵をかごに入れた。
オーストラリアでもそうした卵がどこでも売られており、わたしは今でもそれしか買わない。新鮮だし、味も違う。週末に近くの野菜マーケットで購入することが多いが、買った次の日の朝食はもちろんこの卵を使う。
今日は、この卵を二つ使って中華風タマゴヤキだ。
ポンポンと割ると、黄身がぷっくりと盛り上がり白身はあくまでもねっとりと透明で、見ただけで新鮮だとわかってニンマリ。
中華なべに油をたっぷりと入れて熱し、溶き卵を一気に流し入れる。ここが肝心なんだけれど、かき混ぜずにじっと回りがふつふつと焼きあがるのを待ち、こんがりとしてきたらすくって油をそっときってから、皿に盛る。中心はまだとろりとしたままの半熟だ。ここに刻んだネギを散らし、李錦記の特級オイスターソースをたらし、最後にコショウをがりがりとけずって出来上がり。
本当は唐辛子をたくさん散らすほうが見た目も好きだが、今日は少々のどが痛いので我慢。
ほかほかのご飯でこの卵を食べたら、もう美味しくて美味しくて、やっぱり朝食は箸を使える料理に限るね、なんて思ってしまう。