がびのテラス - 軽妙にして辛辣、独断にして優雅に

レッドスナッパー(鯛刺し)のカルパッチオ

里帰りの東京でいやというほど刺身と寿司を堪能してきたので、丸顔の中国人に声をかけられたときにも、どうしようかなと迷った。

「刺身にできる新鮮なレッドスナッパーがあるよっ」
中国人は、常連になってしまった魚屋のご主人だ。「これならゼッタイ買う」という期待をこめて、すでにビニール袋を手に待ち構えている。ギックリ腰をかかえてようやく車を運転してきたんだから、美味しいものなら買ってしまおうという気になった。

レッドスナッパーは鯛の一種で、日本の真鯛によく似ているが本当は違う種類らしい、とこないだ何かの本で読んだ。しかし、西洋の和食屋で出る「鯛の刺身」はまず間違いなくこれだ。わたしもよく買うが、味は日本で食べる鯛刺しとほとんど同じ。

わさび醤油で食べてもよかったが、今日はちょいと趣向を変えることにした。

「カルパッチオ」はよくイタリア料理の前菜として出てくるが、普通は牛のフィレ肉を使う。イタリア人は元々魚を生で食べる習慣がないが、実はこんな風に刺身用の魚を使ってもできるのだ。謂わば、食のクロスカルチャーだね。

作り方はいたって簡単、まず上等なバージンオリーブオイルとレモン汁を同量混ぜ合わせ、そこにイタリアンパセリとディルのみじん切りを加えて、さらに塩コショウするだけ。これが漬け汁だ。わたしはディルを買うのを忘れてしまったので、今回はビン入りの乾燥ディルで代用した。薄く切ったレッドスナッパーを漬けて、冷蔵庫で十五分。ほんの少し身が締まったところでベビーリーフのサラダを添える。汁はたっぷりかけるから、大盛りのサラダもぺろりと食べられる。

これにキリリとした白のシャルドネなんか合わせたら、もう美味しくって頬っぺたが落ちる。実は、ゆきちゃんが恨めしそうに手をわたしの膝にかけるが、これだけは「レモンが入っているからだめねー」と言いながらやらないんだ。

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