冬の乾期に入っていたバンコクは、着いたのがほとんど真夜中だったせいかとても涼しい。今朝起きてから新聞を広げてみたら、何と十八度しかなかったという。昼間でも二十五度ほどだ。エアコンを使わないで過ごせるバンコクというのは、年に何日もない。
こういうとき在日外国人たちは「嬉しいねえ」などと言いながら、パティオやらテラスやらで外の夕食を楽しむものだが、タイ人はセーターを着込んで「寒くて困るねえ」とこぼす。体感温度の違いか。
久しぶりに顔を出したオフィスでは、秘書がセーターの上にジャケットを着て、おまけにスカーフまで巻いちゃっている。二十五度でそこまで寒がるところがタイ人らしい。
今晩は、パースから一キロ半ほどの牛肉の塊を持って来たので当然ローストビーフだ。ローストビーフなどと言うといかにもタイソウなご馳走のように聞こえるが、実態はオフィスで仕事をしながらできる。
まず赤ワイン、粒マスタード、ローズマリー、タイム、にんにく、塩、粒コショウを石のすり鉢で混ぜ合わせ、ぽくぽくと叩き潰す。そしてオリーブオイルをたらりとたらす。これを肉に塗って冷蔵庫で三十分ほど。その間にオーブンを二百度に温め、ジャガイモ、ニンジン、ズッキーニ、赤ピーマン、カリフラワーを一口大に切り、塩、コショウ、オリーブオイルを加える。肉をオーブンに放り込んで四十分、オーブン用温度計をど真ん中に差込み、周りに野菜を加え、また四十分ほど。野菜に焦げ目がついて、肉の真ん中の温度が五十五度くらいを指していたら、出来上がり。あとは、肉にホイルを巻いて十五分ほど落ち着かせるだけ。こんな風に真ん中がうっすらと赤いローストビーフは、大きさによってもオーブンによっても時間が違ってくるので、わたしは温度計を使う。
ミディアムレアレアのローストビーフは六十五度というひともいるが、わたしは五十五度から六十度で十分だと思う。肉は落ち着かせている間にも、すこし温度が上がるからだ。
涼しいテラスで、そよ風に吹かれながらの夕食も楽しい。