日本では「イイダコ」と呼ばれる小さなタコがある。目と目の間に金色の紋があるというから、もしかしたらこちらで売られているベイビー・オクトパス(Baby Octopus)は同じ種類ではないのかもしれない。
スイスのドイツ語圏にいたときには、イタリア人だけが買い求める大きな生ダコが魚屋に売っていた。彼らは、ほとんどトマトソースの煮込みに使っていたようだが、わたしはこれを茶葉を入れた大鍋で茹で、スライスして食べた。要するに、タコの茹で刺しですな。
トコロ変わって、こちらオーストラリアではこのかなり小さいサイズのタコをバーベキューするのが一般的だ。値段もかなり安い。
今日のランチは一人分しか作らないので、わざわざ庭のバーベキューに火をいれるまでもない。フライパンで充分だ。タコは洗ってから半分に切っておく。ナムプラーソース(フィッシュソース)、ショウガのすりおろし、刻んだ唐辛子、レモン汁を合わせ、最後に庭からむしってきた香菜の茎と根を刻んでいれ、タコをマリネして冷蔵庫で三十分。
香菜の根と茎を捨ててしまうひとが大半だと思うが、これは大間違い。茎と根はかなり香りがきついので、煮物や炒め物に使えるのだ。サラダなどで生の香菜をあしらうときには、もちろん葉の部分だ。このほうが優しい味わい。だから、たまにスーパーで香菜を買って香菜の根がちょん切られているのがわかると、わたしはひそかに罵る。中華食品店でこんなモッタイナイことをしたら、客から袋叩きにあうよ。
今回は庭に香菜があるので、引っこ抜けばよいだけだから簡単だ。根も茎もちゃんとしっかりとついている。ちなみに、庭で香菜を作ったことのあるひとは知っているだろうが、新鮮なものは市販のものとは格段に香りが違う。庭から引っこ抜いてきただけでも、キッチンに戻るまでに、手から香りが立ち上ってむせかえるほどだ。もっとも、香菜がきらいなひとには、こんなに恐ろしいことはないだろうが。
さて、フライパンに油をひいて(中華料理風のときにはもちろんわたしだってオリーブオイルは使わない。菜種油かピーナツ油だ)煙が立ち昇るほど熱したら、一気にタコをいれてすばやく炒める。ゆっくりなんぞしていたら、タコが固くちぢまってしまうからだ。
これをアジアングリーンと呼ばれるサラダミックスに汁ごとざざっとかけてしまう。あとからもうすこしすっぱくしたかったら、レモンをじゅうと絞ってやる。最後に、香菜の葉の部分をぱらぱらっと。
この小さなタコは、煮付けにしても美味しいだろうと思う。ショウガをいれて甘辛く煮たやつだ。そういえば、もうほとんど純粋な和食を作っていないことに気づいた。作るのは友達が来たときに、寿司やらナスの田楽を披露するくらいだ。
正月には東京里帰りなので、母の手作り料理(おお、それからおせち料理なんていうのもあった)を堪能する予定。