今日の晩御飯は鯛をオーブンで焼いたのよ、と母に言ったら、電話の向こうの江戸っ子弁は「シとりでオカシラ付きかい。豪勢だねえ。」と威勢がいい。ここでヒとシの間違いの揚げ足をとったりしたら、国際電話だろうが何だろうが延々と小言が始まるので、とりあえず無視だ。
オカシラ付きと言って、日本では「メデタイ」ときにしか登場しない鯛も、こちらでは色々な種類があって丸のままのものが魚屋でも手にはいる。わたしはその中でも小ぶりのものを探し出して買うが、50cmくらいもある大きなものがゴロゴロと氷の中に並べられているのだ。
そして、こんな大きな魚でも蒸せる蒸篭(せいろ)は、中華食品店に行けば後ろのほうに埃をかぶって壁にかけられていたりする。大は小を兼ねるので、欲しいなあと思ったりもするが、まさかゆきちゃんが二匹くらいはいる蒸篭をどこにしまえばよいのか見当がつかない。
だから、こういうときにはまたしてもわたしの好きなオーブンが登場するのだ。
ごま、ショウガ、チリをきざんで鯛にすりこみ、用意したタレをオーブン皿にしいてからそうっと置く。そして途中でこげないようにタレをかけたり、アルミホイルをかけてやれば、30分もたたないうちにこんな豪華な「オカシラ付き」が出来上がる。わたしの大好きな目の下の頬肉も、ゴマの香りをほんのり放って、うーん柔らかく美味しい。
こういうときには、タイを経由してパースまで持ってきた日本酒のひやをくいっとあおってみる。