今日は第三学期最後の日だ。
西オーストラリアの中学/高校は、ほとんどが一貫教育で公立私立ともに四学期制だ。だから、フツウの生徒たちにとっては何でもない学期末、二週間の休暇でワクワクする日でもある。
ところが、最上級生である17歳の12年生たちにとっては違う意味をもつ。後1週間で学年末試験が始まり、それが終って第四学期が始まると、もう卒業式と大学入学試験しか残っていないからだ。つまり、今日は公式に「最後の授業」の日。第四学期で彼女たちを見るのは、せいぜい入試の追い込みで補習をしたり、学年末試験の答案を返したりするときくらいだ。
今日は、日本と同じで思い出のサイン帳を持ってクラスに来る生徒たちもいる。あまり授業にはならないから学年末試験の注意事項の念を押すぐらいで、あとはちょっとしたおしゃべりだ。それでも「休み中のエッセイ練習のために原稿用紙が欲しい」という生徒のために、オフィスに一旦戻って取ってきた。
そうしたら白板に何やら日本語が書いてある。「先生へ、8年生から今までいろいろのことをありがとう。日本語のクラスは私の一番大好きなクラスだよ!しんじられないー!もう終るよね!大好き!バイバイ、リオーナより」
「まだ自然じゃないよねえ、この日本語」と言いながら、ちょっと息がつまった。つまったと思ったら、どうにもこうにも涙がポロポロこぼれた。こぼれたら止まらない。
わたしがこの女子校に来たのは2006年の半ばだ。この子たちはわたしが受け持ったときには、必修日本語の8年生で12歳になったばかりだった。それから3年間教え、選択科目に変わってたったの6人になった。成績で言えば、BからDの生徒たちだった。他のもっと優秀な子たちが日本語を選択しなかったことに、わたしはがっかりした。がっかりして今度はため息が出た。この子たちの成績をどうやって引き上げていこうか、と思うと気が重くなった。補習の量を増やした。そして外国語学科の予算を、大幅に放課後の会話練習アシスタントに割いた。それでも成績はあまり芳しくなかった。
ただ、少人数のクラスの常で、和気あいあいの雰囲気はあった。いい子たちだったが、一生懸命にやるときもあれば全く宿題をしないときもある。そのせいで時々バクハツするセンセイを見ると、口をつぐんで嵐が去るのを待った。長年教えているので、そんなところまでいやに知り過ぎている子たちだった。
会話練習アシスタントが来ることを忘れていてうちに帰ってしまった子に、携帯電話で怒鳴ったこともあった。次の日に「ごめんなさい」と言われると「わたしはあなたの秘書じゃないのよ」とため息をつきながらも、それからはいちいちメールまで送った。それでも忘れる子は忘れるし、母親から「放課後の練習の日にはわたしにも携帯メールを送っておいてください」と言われて「わたしは母親の秘書でもあるのかよ」とまたため息が出た。
そうしたら、今日午後の最後の全校集会に来ていたその当の母親から「センセイ、本当に今までありがとうございました」と言われた。「うちの娘は日本語が一番好きで、センセイが一番好きで、だからこのプレゼントを1週間ぐらい前から探していたんですよ」と言う。その12年生の子は授業の後で、わたしにフクロウの模様のついた美しいネックレスをプレゼントしてくれたのだった。
そんな話を聞いて、父兄も生徒も職員も集まり始めた全校集会会場でまた涙が出た。12年生の父兄から御礼を言われたのは、教師になって初めてだった。
ハンカチで涙をぬぐいながら着席すると、隣でじっとわたしを見ていた同僚が「また、父兄から無理難題でも言われたの?」と心配そうに訊く。いつもイジワルされているからなあ、と今度は涙が泣き笑いに変わった。
いい話だなあ。
がびさんにとって、教職はまさに天職ですね。
他のどんな仕事だって一流にこなしてしまわれること、十々承知しながら、
やはり人を育てる仕事ですもん、「がび先生」最高です!
これまでがんばってこられたからこそ、この日の喜びも大きいのでしょう。
すばらしいなあ。
子どもたちって、教師をよく見てますよ。
がびさんの教えることへの熱意、彼女らを思う気持ち、ちゃんと伝わってた。
あぁいい話だ…。
さこさん、ありがとうございます。なんだか今日は気が抜けてしまって、ちょいとゆっくりしています。と言っても、日頃の早起きのせいですでに6時にはバッチリ目が覚めてしまいましたが。
今学期は忙しくてイヤなことも沢山あったけれど、なんだか昨日の出来事できれいサッパリ消えてしまって、またがんばれるかな、と思うようになりました。単純です。(笑)
ツイッターで生徒との格闘の日々?をずっと拝見していました。
言うこと聞かなかった生徒、こちらの思いがなかなか伝わらなかった
生徒ほど、印象に残ってかわいいものなのかもしれませんね。
こんな素晴らしい熱血先生に教えてもらった生徒は幸せだなあー
このホワイトボードの写真、感動です。
これからもがんばって下さい。
ありがとうございます。こういうことがあるから「やめてやるっ」と帰宅してから吠えるようなことがあっても、やめられないんですよねえ。子供がいないせいもあって、10代の子に接していられるのは結構楽しいです。(いや、楽しくない裏話もゴマンとありますが)