Dislexia(ディスレクシア)という言葉をご存じだろうか。日本語では「識字障害」とも訳される。近年、表音文字である英語圏で最も理解が必要な学習障害のひとつと言われているのが、これだ。
一般的には文字と音を結び付けられない、文字の形を正しく認識できないという症例があるが、知能が遅れているわけではない。その他の学習に関しては他の子供たちと何ら変わらない能力を発揮する。それにもかかわらず、知能の遅れと同様に認識されるのは、その症例と知識があまり巷に浸透していないからだ。
表音文字(英語、フランス語、ドイツ語などのアルファベットを使う言語)の国々では大体10%から20%ぐらい、表意文字の日本や中国などではその約半分と言われている。わたしの教える学校では30%がこの識字障害を持つ。つまり、白人の少女たちが95%を占めるこの学校では10人のうち3人がこの障害をもっているということになる。かなり高い数字だ。
コンピューターを使っているならすぐわかるだろうが、WindowsでもMacでも英数字のデフォルトフォントはなぜかArielだ。よく使われているのはこのほかにもTimes New Roman、Verdanaなどがある。これらの文字は、識字障害を持つ子供たちには読むのがかなり難しい。だから、わたしの学校ではTrebuchet MSが標準フォントである。
このTrebuchetは現在ではWindowsにもMacにも最初からついているが、よくみると他のフォントにくらべて文字列のスペースが広い。そして、Ascender(アセンダ)と呼ばれる上に突出した部分を持つアルファベット(b,d,f,h)とDscender(デセンダ)と呼ばれる下に突出した部分を持つアルファベット(g,j,p,y)の形では、他のフォントにくらべて突出した部分が長くなっている。このアセンダとデセンダが短いと、識字障害では認識しにくいからだ。
そして、文字の列と列の間のスペースはシングルではなく1.5倍である。これも、読みやすくするため。さらに、ワークシートなどはクリーム色や灰色などの色付きを使う。識字障害では白紙に黒字というコントラストにも弱い子が多いからだ。
障害のないひとたちには些細なことなので、関心がなければ「あまり違いがわからない」と言うだろう。なぜ、こんなことが問題なのかと不思議に思うだろう。それは、無知と無関心のたまものだが、悪気はない。また日本では、ディスレクシアに関する単独の研究が進んでいないのも、学習障害に関する知識の拡大をさまたげていると思う。
だから、知ってほしい。
識字障害の子供たちには、スクリーンや紙に書かれた文字が踊り、歪み、ぼんやりとかすみ、上下反転し、大小さまざまに見えることを。あなたたちが普通にさっと読める本の1ページが、彼らには時間のかかる認識の連続であることを。