がびのテラス - 軽妙にして辛辣、独断にして優雅に

西オーストラリアで日本語教師になるには:「資格を取得する」

日本語教師としてブログを書くようになってから数年たった。その間に、ソーシャルネットワークなどでのメッセージも含めて、実に何十回も「どうやったらオーストラリアで日本語教師になれますか?」という質問を受けてきた。そのたびに丁寧に返事を出してきたが、それよりもここで一回詳しく書いておくほうがいい、とようやく気づいた。遅いよなあ、もう。

しかし、これから書くことには前提もある。
わたしが教師として仕事をしているのは西オーストラリア州の州都だ。オーストラリアでは州によって法律も違い、そこには教師の資格と雇用状態も含まれる(と思う)。だから、「それはシドニーでは違うよ」と言われても、わたしは「そうですか」としか言えないのだ。また、「西オーストラリアで教師をやっていたけど、それは違うよ」と言われても、これにも「そうですか」と言うしかない。今年は日本語教師になって九年目。それ以前のことも、また最近になっていきなり変わった事情などにも疎いし、ましてや授業などに関しては教師としての「個人的な経験と感想」であって、全く違うそれを武器に反論されても、それはそのひとの考えと経験であって、わたしのものではないからだ。人生はマルとバツでできているわけではない。
さらに、わたしの経験はSecondary Schoolingと呼ばれる中学高校一貫教育の場に限られ、その後の大学や専門学校での日本語教育には触れない。だから、これには訊かれても「わかりません」と答えるしかない。

前置きが長くなったが、何年もネットを使って発信していると、嬉しいメッセージがあるのと同じぐらいの量の「おかど違いの反論とわたしの知らないことへの質問」もあるので、一応予防線をはっておくのはわたしの常識になってしまったということ。

★資格コースについて★

オーストラリアの大学の学士課程は三年。日本のように教養と専門に分かれているわけではなく、三年間みっちり専門課程で学ぶ。そして、日本のように「教職課程」を科目のひとつとして選択することはできない。
教師になるための資格取得には二つの道があり、ひとつは、専門として教育学部を選択し四年間「教育」を学ぶこと。卒業したあとで「教えるべき科目」はその間に選択科目として取ることになる。もうひとつの道は、学士となりその後大学院に進んで1年ないしは2年の教育学ディプロマを取得することだ。西オーストラリアではまだ1年だが、東海岸ではすでに2年制になったと聞く。このせいで永住許可証に重大な影響が出るのだか、それは後で述べる。大学院に属しているので、研究修士課程と並行してこのコースをとる学生も多い。修士だけあっても仕事にありつけないのは、どこの国でも同じだ。わたしのときには、研究博士課程の学生が4人いたし、すでにPhDで名前の前にドクターのつく学生も2人いた。
わたしはその数年後修士課程に進んだが、同時期に私立女子校でフルタイム勤務になりやむなく休学届けを出した。だから様々な機会に「退職したら趣味として戻る」と言っているのは、まんざら絵空事ではないのよ。うん。

もうひとつ、外国人としての日本人にはオマケの義務がある。
わたしは日本の大学でとった学士資格があるので、三年間の専門課程を飛び越してこの大学院ディプロマコースに直接入学したが、これにも審査がある。西オーストラリア大学では、IELTS (International English Language Testing System) のアカデミック試験で「3科目(読解、聴解、口頭全てを合わせた平均7ポイント以上」だ。研究修士課程の最低限が「平均6.5ポイント以上」だったことを考えると、なんでこっちのほうが高い英語力を要するのかビックリするだろうが、これまた後で述べる。西オーストラリア大学では、これに加えて「簡単な英語エッセイを提出してください」と言われた。お題は「あなたはこの大学で学ぶことによって、大学/講師・教授/学生の三つのグループにどのように貢献できるや?」というものだった。これに英語訳をつけた日本の大学の成績証明書を添付して提出、晴れて入学許可書を受け取ることになる。

コースで学ぶ間に、またひとつ英語試験を受けた。これは外国人だからというわけではなく、「教師予備軍」に対して英語が第一言語だろうが第二言語だろうが、一律に課せられるテストだ。教師は様々な書類を英語で書かなければならないので、これができないと致命的。英文法が欠落した過去二十年ほどの間に教育を受けてきた若者たちの中には、コンピューターの影響で正しいスペルと英文法を使えないひとたちが少なくない。だから、どちらかというと「スペルと文法とコンマと大文字が正しく表記されていて、意味のわかる英語の文章が書けるかどうか」というテストだ。もちろん手書き。IELTS試験の高ポイントがまず入学前の外国人に課せられるのは、こうした「英語を使わなければならない教師」力のうち基本をチェックするためだ。
そう言えば、何度も受けさせられているオーストラリア人の学生が数人いたような気がするし、最終的なディプロマ取得時には百人近くいたこのディプロマコースの学生は2/3まで減った。

英語は重要だ。東海岸では、外国人のためにというより「日本人のための英語授業」を含むディプロマコースがあると聞くが、こうしたものは西オーストラリアにはない。西オーストラリア大学以外では、大学付属の外国人のための英語コースで半年間「大学用語」から「論文の書き方」まで学ぶと自動的に入学できる大学もあるが、その半年間には数多くの試験もあるので日常会話程度の英語力では不可能。
ディプロマコースでも様々な論文を書かされる。筆記試験もある。そして教育実習も。子供たちの英語は容赦がない。「外国人と話すことに慣れた英語教師の英語」と全く違うのは当然なのだけれど。

さてこうしたコースを終了すると、晴れて「教師資格」が与えられるわけだが、それですぐに教師になれるわけではない。あなたが日本人というビザで滞在している外国人なら特に。また、日本で教師として働いていたひと、または教師資格のあるひともここで教えることは「可能」だけれど、わたしの知る教師仲間のうちでは皆無だ。何人か日本でも教師をしていたひとを知っているが、全員こちらでもディプロマを取得している。

次のエントリは「働ける前に、まず」。

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