日本への里帰りで楽しみなものに、もちろん母の手料理がある。朝ご飯に添えてある小茄子の漬物もそのひとつで、さっぱりとして色も艶も鮮やかだ。美味しい なあ、と言うと、お祖父さんの代から作り方は同じだからねえ、と母もにっこり。水に塩をたっぷりいれて煮立たせ、冷ましてからカメの小茄子の七分目くらい までざんぶとかけ、最後に古釘をぱらぱらといれて、母の生まれる前から家にある漬物石を乗せる。そして次の日くらいから、紫色に輝く小さな茄子が食卓にの ぼるのだ。古釘をいれると何故か色が綺麗なまま出来あがるのよ、と昔母が教えてくれた記憶がある。しかし年取った母には年々漬物石が重くなってきたよう で、今年はとうとうネジでまわして圧力をかける小さな漬物用容器を買ったらしい。
それでも台所をのぞいたら、容器の中に古釘が何本か浮かんでいるのが見えた。母の漬物は、容器が新しくなろうと作り方も味も変わらない。