がびのテラス - 軽妙にして辛辣、独断にして優雅に

マンジマップのトリュフ狩り:ブリッジタウンからマンジマップへ

ブリッジタウンの朝は早い。
7時少し前に目が覚めたが、モーテルはメイン道路に面しているのですでに車の音が聞こえている。外は薄暗く、霧が立ち込めている。パースで霧が出ることはまずないので、これだけでも寒い丘陵森林地帯なのだなあと感心。

支度をして外に出るとかなり寒いが、それでも陽が射し初めている。気温は朝8時で5度、吐く息はもちろん白い。近くのパン屋に寄って、珈琲とクロワッサンで軽い朝ゴハンにした。パン屋は町に1軒のみ。だから珈琲も他の飲み物もサンドイッチもランチ用軽食もある。外には椅子とテーブルが出ていて、そこでさっと食べることもできる。

外のテーブルに座って、入れたてのフラットホワイと。オーストラリアの朝の珈琲はこれが多い。エスプレッソ珈琲に泡立てたミルクを注いである。クロワッサンは…まあまあだが、ウチの近くの店La Bellaの焼き立てクロワッサンにはかなわない。

向かいの肉屋はまだ8時だというのにもう店を開けていて、こんなジョークの看板が真ん前に出ていた。

「ブラックウッド肉屋 皆さん、数千もの罪もない植物がベジタリアンたちに殺されています!どうか、この暴力のストップに力を貸してください…肉を食べましょう!」
食肉業者としちゃ苦肉の策のブラックユーモアなのだろうね。こういう看板は「植物」の部分を「動物」にしたら、完璧にベジタリアン側のポスターになるから。

ブリッジタウンの外に出ると、どんどん雲が引いて青空が現れた。天気予報では雨降りとなっているが、これは期待できるかもしれない。

マンジマップ(Manjimup)は、パースから南下して300キロ。人口4000人ほどの小さな町だ。余談だが、西オーストラリアの地名には語尾にUP(アップ)がつくものが多い。これはアボリジナル・ンガー族の言葉で「待ち合わせ場所」を意味する。

マンジマップは20世紀初頭には材木を提供する林業で栄えた地域だが、その後は果樹園と野菜畑、ワイナリー、酪農業も盛んになった。リンゴで有名なピンク・レディーはマンジマップで初めて改良された種だ。その後タバコ栽培もあったが、1960年代には廃れてしまった。まあ、最近のオーストラリアでの喫煙絶滅運動のせいで、早いうちに見切りをつけたのは正解だったとも言える。

もうひとつマンジマップで有名なのがトリュフ生産だ。それも黒トリュフと言われる種類。生でしか食べられない白トリュフと違い、黒トリュフは調理しても生でも食べられるので、レストランなどで重宝されている種類なのである。
気候と土の性質がフランスの名産地ペリゴール(Périgord)に似ていることもあり、オーストラリア全土のレストランなどで使われるトリュフはそのほとんどがこのマンジマップ産だ。日本からも業者が入っていて、日本のレストランでもマンジマップのトリュフが使われているところが多い。

トリュフ生産(というより採集。これは後の記事で述べる)は冬期(主に6月7月)に行われる。雨の多い季節だ。その時期をすぎると8月には雨が少なくなり、観光客相手にトリュフ業者がトリュフ狩りを催す。つまりトリュフ狩りというイベントは、今の寒い季節以外には楽しめないわけだ。

トリュフ狩りの業者はふたつほどあったが、ひとつはレストランとホテルも併せ持つ大きなところと、もうひとつはトリュフ生産者たちを共同で取り仕切る業者のところ。結局パースから予約しておいたのは後者だ。

場所はマンジマップの町から10分ほど行ったところにある。アスファルトもないガタガタ道を行くと丘の上に農家が現れた。

また雲が日差しを覆い隠し始め、どうも変わりやすい天気の日のようなので傘も持参した。トリュフ狩りはもちろん外だし、しかもかなり歩くと言われている。履いているのは、ハイキング用の無骨なトレッキングブーツだ。用意万端で農家のゲートをくぐり、Australian Truffle Tradersと書いてある看板に向かった。

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