がびのテラス - 軽妙にして辛辣、独断にして優雅に

お嬢様学校は制服の規則がキビシイのです

わたしの勤める学校は私立お嬢様学校であるから、生徒たちは皆「制服」を着用しなければならない。
身ビイキかもしれないが、近くの女学校のものと比べても大変可愛らしくって、その制服着たさに入学した、なんてケシカラン子供たちもいる。セットで着用しなければならないのは、冬のベレー、そして夏のパナマ帽。セットなので学校の外では必ずかぶらなければいけないのに、十代の女の子たちはちょいと反抗してみたいのか、かぶっていない。皮膚ガンが世界で一番多い国、オーストラリアでは紫外線が日本と比べ物にならないほど強い。それにもかかわらず、夏のカンカン照りの下でもかぶっていない子たちがいる。

そして、周りは「家」というにはあまりに大きい邸宅が立ち並ぶ高級住宅街だ。つまり何代も続けて子女を送る家も多いわけで、必然的に、界隈にはウン十年前の卒業生たちもゴマンといる。学校には、やたらと「***制服姿の生徒たちの校外素行」に関してメールやら電話やら手紙やらが送られてくる。その中でも多いのが、「制服をウルワシクもきちんと着ているイイコチャン」だの「一目をひくほど着くずした、***の風上にもおけないワルイコチャン」だ。
別に着くずしているわけではないのだけれど、帽子をかぶっていない生徒たちはひときわ目立つ。というより、制服だけでこの学校の生徒だと明らかにわかるだけに、ひとつセットの一部が欠けていても人目をひくのだろう。

かくして、レッドカードならぬ赤いペナルティーカードを持ったセンセイが、登校時と下校時には学校の周りで目を光らせているというわけだ。これをもらっちゃうと、昼休みのゴミ集めという「屈辱的な罰則」が待っている。そして、あろうことか今学期はわたしにもそのオハチが回ってきた。去年は、のどかに昼休みの中庭見回りだったのに。

たかが帽子、と考えてはいけないところが、この「教師の義務」というやつだ。センセイがいないと見ると、すばやく帽子を脱いで背中のバッグにねじりこむ生徒が後を絶たないが、それを追いかけていってペナルティーカードを書く。めんどくさい仕事だが、習慣というのはオソロシイものだ。今朝、ちょうど大通りを学校に向かって車を走らせていたら、信号が赤信号に変わった。何気なく横をむいたら、おおバス停だ。そこにわたしの学校の生徒たちが五人、バスを待っていた。それも、誰ひとりとしてパナマ帽をかぶっていない。
ずずっと助手席の窓ガラスをおろし、「こらっ、バス停の***の五人っ」
生徒たちは皆、同時に凍りついた。
「帽子をかぶりなさいっ。今回は見逃すけれど、明日またかぶってなかったらウムを言わせず赤カードっ。顔はシッカと覚えたからねっ」」
運の悪い五人は同時にごそごそと帽子を取り出し、一斉にかぶった。まさか、赤信号でドまん前に停止した車からセンセイが顔を出すとは、思ってもみなかったらしい。同じくバスを待っていた大人が二人、隣でくすくすと笑いをかみころしている。

信号が青に変わったので、「どうせ、わたしがいなくなったらまた脱ぐんだろうが」と思いながらそのままアクセルを踏んだ。そして、しばらくしてからやっと「公共の場で職業病がでちゃった」ことに気づき、ガクゼンとしたのであった。ああ、センセイって哀しい。

2 COMMENTS

marq

こんにちは
娘の通う学校も、「お婆様の代から」なんて方が多くて
OGからのタレこみチェック電話、多いらしいですよ。
まぁそのお陰なのか、渋谷のセンター街でフラフラしている
生徒・学生を見たことないので、結構な事なのですが・・・

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がび

お嬢様学校というのは、どこの国でも同じなんですねえ。タレコミ電話もやっぱり来ますか。
今朝もまたバス停(昨日と違うバス停)を車で通り過ぎたんですが、そこにもまた何人かうちの学校の女の子たちがバスを待っていて、やっぱり誰も夏のパナマ帽(こっちはまだ夏です)をかぶっていない。ところがっ。その中の一人だけが、しっかりとかぶっていたんです。実は、日本から来ている留学生でした。いい子だなあ、もう。
今朝は制限速度を守っていたおかげで、全ての信号が青でしたから、停止することもなくチラリと確認しただけ。

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