昔、妹が美容鍼を試しに行ったとき、顔中針だらけの客の顔を見て怖くなったそうで、逃げ帰ってきたことがあった。母は確か何度か(これは美容ではなく治療で)打ってもらっていた。そして、若いときには腰痛や肩こりと縁がなく、美容目的の鍼にも興味のないわたしは、まだ一度も体験したことがなかったのである。そう、今日までは。
わたしの通うクリニックの医者は、名前だけ見たらスペイン人、しかし顔を見るとコンパスで描いたような丸顔中国人、分厚いメガネをかけたフィリピン系の男性だ。中国鍼の専門家でもあり、わたしが昨年四十肩で治療に行ったときにも、しきりに「鍼の効用」について講義してくれたひとだ。どうも、打ちたくってたまらないらしい。
今日は学校のホームルーム(=ハウス)対抗水泳大会の日だったので、スタジアムのプラスティックの椅子と立ちんぼの監視官の仕事に恐れをなして、もう一日休んだ。そして、また車でクリニックまでやってきたのだった。
わたしのギックリ腰は段々とよくなってきてはいるようだが、それでも十分以上座っているとたちあがるときに痛みが走る。車を運転しているときに、Uターンのハンドルなんか切ったら声が出てしまうほどだ。車から出るときにも、腰を曲げないようにしてシートからそろそろとすべり降りる。まるでイカかタコだ。
「じゃあ、鍼を打ちましょう」
切々と痛みを訴えると、医者はきっぱりと、しかし「熱心さで目をキラキラさせて」言った。
「一回施術すれば、四時間痛みなし、そしてまたちょっと鈍痛が走って一時間、今晩にはまた痛みがうすらいでよく眠れますよ。効果の持続は十六日間」
「い、痛くないんですか」
「蚊に刺される程度です」
うつ伏せになってオシリ丸出しのわたしに、次々と鍼を打つあたりは大変手際がいい。全部で六本。
「さて、電気を通しますね」
「ええっっ、そんなこと言ってなかったじゃないですかっ」
この医者はただでさえ仏頂面なのに加えて、優しい冗談も軽口も一切たたかない。口から出るのは、専門的な解説だけだ。しかし、わたしにはもう解説なんか耳にはいらない。びびーんと電気が通ったら、いやオシリに響くこと、響くこと。「いてえ」と言うまで周波を上げるのだけれど、わたしがすぐに「いてえ」と言ったものだから、二分ぐらいたってようやく慣れたころにもう一度上げた。
しかし、この電気はすごい。慣れるともう快感だ。「理学療法のときの低周波パッドよりはるかに中に響きますねー」と呟いたら、「針を通して痛い筋肉のツボに直接働きかけているんだから、当然です」とそっけなく言われた。サービス精神のない医者だ。。。
十五分ぐらいで終了。ギックリ腰最初の日に、理学療法のあとに激痛で立ち上がれなくなったことを思い出してそっと起き上がったのだが、全く痛みがない。おお。
「いや、これなら今から走れちゃいますねー」
「走るのは、医学的見地から問題外です」冗談だってば。
一応今日いっぱいは安静にしていなければならないが、明日はもう学校に行けると思うとちょいと嬉しい。実を言うと、コンピューターにも満足に向かえないし、寝そべって本を読んだりテレビを見たりするのに少々飽きちゃったのである。
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中国鍼ってあの畳針のような太くて長いやつ?
あれはちょっとおっかない。
日本の鍼は繊細でうすく刺すけど、あっちのはブスリだからな。
でもよくなってよかったですね!
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た、畳針ですか。
針だけは、うつぶせになる前に見せてもらいました。「日本製の針ですから、痛くないですよ」と言っていたのは、このことだったのかあ。。。。。(今、やっとわかった)
でもかなり深く刺していたような気がします。日本の針は使っても、彼自身は中国鍼の専門家だからかな。
まだ痛みは多少ありますが、日常生活に不便を感じることがなくなりました。ほっ。
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中国針って、そんなに恐ろしいものだと初めて知りました。
オーストラリアって、サービス精神満点の笑顔の人が多いのかと思っていたら、仏頂面で鍼・・。なんだか効きそうですね。
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こんにちは、i-iさん。
実は「鍼初体験」で結構緊張していたものですから、わたしはちょいとおしゃべりになってしまったのだと思います。でも、少しぐらいわたしの緊張を和らげるリップサービスしてくれたっていいのにねえ。仏頂面じゃあ、もっとコワくなります。
結果的には効いたので腕はいいんでしょうけれど。