わたしの受け持つ8年生(12歳ー13歳)のクラスの中に、ひとつだけ成績のよい子供たちだけの選抜クラスがある。すでに小学校で3年ほど日本語を習った子供たちの中から、さらにテストをして選んだだけあって、簡単な言葉やひらがなの読み書きがかなりできる。
このクラスを使って、今年からイマージョン教育を試験的に始めた。
イマージョンというのは、母国語ではない言葉を使って他の科目の授業を進めることを言う。オーストラリアでは、すでにフランス語での「保健」の授業が語学教育の一環として組み込まれている学校も多い。
通常週2時間の授業が、このフランス語では「保健」を1時間増やして3時間となるが、わたしのクラスはまだ試験的なので、2時間のみである。つまり1時間は英語も使う普通の教室の授業、そしてもう1時間は日本語だけの料理実習の授業である。
日 本語のイマージョン教室はまだ西オーストラリアでは皆無なので、このわたしのクラスが最初の試みとなる。保健は、フランス語では英語と似通った言葉が多い ので比較的楽だが、日本語では難しい。それならば「家庭科の教室を使って、料理を通して日本語を習うってのは?」とアイデアを出したらあれよあれよと言う 間に、実現してしまったのだ。そして、言いだしっぺのわたしが結局担当させられることになった。
今日は、そのイマージョン教室の最初の料理の日だったのだ。
これまで3週間は、料理に使う言葉や言い回しを少しづつ教えてきたので、その成果を見るべく、まずは作ってみることになった。
題して「バナナ巻き」。
トルティーリャ用の市販のやわらかいパンケーキに、チョコレートスプレッドを塗ってから切ったバナナを置き、はちみつを垂らし、くるくると巻いてひもでしばっただけ。
恐ろしく甘くてわたしなんぞひとくちで頭が痛くなるほどだが、こちらの子供たちは大喜びだ。
料理の手順とセンセイの指導は、もちろん全て日本語である。英語は使わない。
子供たちも、この家庭科の教室ではセンセイが日本語しか話さないことを知っている。
チョコレートスプレッドを調理台にべたべたとくっつけたり、口の周りをそのチョコレートで真っ黒にしたりと、いやいや大変に汚してくれたが、それでもしっかりと片付けまでできたのだから、えらい。
買出しから片付けまで、全てわたしがお膳立てをして、しかも日本語の指図も教えた言葉通り使わねばならず、1時間終わったらどっと疲れてしまった。しかも、家庭科のセンセイたちと違い、そのあとはまだ3時間も普通の日本語の授業が待っている。
だが、楽しそうに作って食べる子供たちを見ていたら、なんだかこちらまでうれしくなってくるから不思議だ。