タイは、完全な仏教国と考えられているが、実はそうではない。北タイには敬虔なカソリック教徒の村もあるし、南に行けばイスラム教徒も多い。加えてバラモ ン教の影響も及んでいるものだから、土地神サマの宿るサンパプームが、どこの家、マンション、オフィスの庭の隅にも祭られている。生まれたら神社へ参り、 結婚式は教会で、葬式は寺で行うことに何の違和感もない日本とは違い、あくまで仏教の中に溶け込んだバラモン教ではあるが、ここに毎朝お参りをするのは当 たり前のことなのだ。
朝早くオフィスが始まる前に、秘書や従業員たちもここに新鮮な花と果物を供え、長いこと線香を手に祈りを捧げる。今日も一 日、家族が健康で過ごせますように。ビジネスがうまく行きますように。朝方のマンションビルのゲート付近はひとびとのあげる線香がたゆたい、一種幻想的な 雰囲気をただよわせる。
有名デパートやショッピングセンターの敷地にも巨大なサンパプームが祭られ、買い物に来たひとびとのみならず、その前の道 を走る車の中から手を合わせるひとたちもいる。バイク上のひとがハンドルから手を離して手を合わせるのも毎度のことだ。祈りを捧げるために事故を起こさな いでねえ、とわたしもこれまた毎度ひやひやしながらそうした光景を眺めている