がびのテラス - 軽妙にして辛辣、独断にして優雅に

カンガルーの孤児を育てるボランティア

パースは地球上で最も孤立した「都市」と言われている。つまり一番近い大都市まで何千キロも離れているということだ。しかし、さすがに街中でカンガルーを見かけることはない。だが、郊外に行けばまだまだ大小様々なカンガルーが生息している。

一般の哺乳類と違って、有袋類カンガルーの赤ちゃんは生まれて数時間で走り回るということはできない。人間と同じように未熟な状態で生まれ、自力で袋に入った後は何ヶ月もの長い間母親のおなかにある袋の中で育つ。だから、動物園などでは、赤ちゃんの顔が袋から見えた時点を誕生日とするらしい。それだけ、小さいということだ。

しかし、カンガルーは夜行性の動物で、夜になると光に向かって進んでしまう習性を持つため、交通事故に遭う確率が非常に高い。母親が事故に遭って孤児になったカンガルーの赤ちゃんを育てるのは、カンガルー募金に登録しているボランティアたちだ。

20060901わたしの友人の働く西オーストラリア州北部の田舎にも、そんなボランティアがいる。
先日、また孤児になったカンガルーが彼女のうちにやってきた。体長20cmほど。長いこと放置されていたと見え、汚れてやせ細っていたそうだ。当然のことながら、まだ歩けるほど成長していない。小さな籠にタオルと毛布を敷き詰め、母親の袋と同じ状態にして小さな体をくるむ。ミルクは、3時間置きだ。だから、田舎の小さな空港で管制官として働く彼女は、カンガルーの赤ちゃん持参で仕事にやってくる。オフィスの隅にそっと置かれたバスケットの中で、赤ちゃんは次のミルクの時間まですやすやと眠る。

このひとは、確かバンディクート(同じく有袋類だが大きなネズミのような動物)の赤ちゃんを道端で見つけ、自分のブラジャーの中に入れて保護センターに持ち帰ったこともある。心臓のそばに置くことで、暖かさと鼓動を感じさせるためだ。緊急の場合の処置らしい。

今までに何十匹ものカンガルーを育て上げてきたが、彼女の役目は赤ちゃんが飛び跳ねることができるまでだ。その後は、保護センター内の広大な敷地で野生に返すためのリハビリが始まり、最終的には野生のカンガルーとして放される。何ヶ月か育てたあとで、彼女がそのカンガルーたちを見ることは二度とない。
かなり手のかかる仕事だと思うのだが、彼女は一度も保護センターからの要請を断ったことがないそうだ。

「別れるときは、いつもちょっと悲しいって言ってたよ」とわたしの友達は付け加えた。

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