そのアイルランド系パブは、車で5分ほどの繁華街の角にある。規模としては小さいほうだと思うのだが、かなり古い店であることは確かだ。通りに面して打ち付 けられた看板には、1902年開店と書かれている。落ち着いた深い緑色の壁と、ステンドグラスが嵌め込まれた窓、そして何よりも、ここには美味しいドラフ トサイダーがあるのだ。サイダーはもちろん林檎から作る軽い発泡酒だが、ほとんどのパブは、ビン入りのものしか置いていない。もっと自宅から近いパブにも サイダーはあるのだが、ここのものと比べると味が数段落ちる。すっきりとした喉越しとほのかな林檎の香り、そして炭酸の少ない軽さが、わたしのお気に入り である。
今日も、ここで友達と1時間ほど夕食前のおしゃべりと楽しんだのだが、早い時間だったこともあり、サービスの「パブニブル」が出てきた。 ようやく仕事帰りのひとびとが立ち寄る5時前後に、大皿に持った様々なスナックがどでんとカウンタに置かれるのだ。イカのリング揚げ、フライドポテト、 キッシュなどが、ほかほかとカウンタで湯気を立てている。ビールを片手に持ったひとびとが、揚げたてのポテトをほおばって楽しげに話す。わたしも、皆にな らってひとつ口にほうりこんだ。