親しいひとの少なくなったバンコク

バンコクに住んでいたころには、何人か友達あるいはビジネス友達がいた。しかし、そうしたひとびとのうちのほとんどが、今ではタイを離れ帰国している。無理もない。わたしがオーストラリアに住み始めてから、もう3年近くになるのだ。ましてや、バンコクの知り合いときたらその大部分が企業の駐在員とその家族である。3年もいれば長いほうだし、タイに居を移して骨をうずめる決心をしているひとは意外に少ない。

だから、わたしが3ヶ月に1度2週間ほどタ イに戻っても、古くからの知り合いはもういないし、新しいひとと知り合える確率はほとんどないという悲しい状況なのだ。日本やスイスに戻るときと確実に違 う点は、これである。バンコクは、「袖触れあって多少の縁をつくる」街なのだ。そして、これからの人生で、もうその後決して会うこともないであろうひとた ちとの縁が沢山できる町でもある。

bananaそれでも、「ややっ見つけたぞっ」と言いたくなるひとびとが街にはいる。屋台の食べ物売りのタイ人たち だ。このバナナ焼き菓子売りの夫婦は、もう何年も前に違う道沿いで商売をしていたのだが、今はタイで一番高いビルの下で店を開いている。こういう偶然もあるのだ。なんの変哲もないバナナの輪切りを串焼きにし、それをココナッツミルク入りのとびきり甘い汁に浸してから、袋に入れてくれる。バナナは回りがカリカリに焼け、中がとろりと柔らかくなっている。甘くねっとりとした漬け汁も唇にからみつく。

前方にあるのは、バナナを皮ごとどっぷりと甘い汁につけてから、蒸し焼きにしたものである。こちらはアタマが痛くなるほど甘くて、口にほおばると窒息しそうになるほどホカホカしている。

「中国系タイ人に見えるくせに、簡単なタイ語しか話さない」わたしを覚えていたらしく、いきなりまだ何も買わないうちから、真っ白い歯を見せて笑い、何事かを オバサンに囁いたオジサン。カメラを向けると目を伏せて「どこに逃げようか」と考えているらしいオバサン。こういうひとたちがいるから、バンコクの街はお もしろい。

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