ここ1年というもの、わたしはほとんど目覚まし時計のお世話になったことがない。
去年バンコクで亡くした愛犬は、わたしがどんなに寝坊しても辛抱 強くベッドの傍らで待っていたが、ゆきちゃんは違う。朝明るくなるとそろそろと動きだし、6時半から7時の間には、すでに「お腹すいたよー」「つまんない よー」とわめく。じゃ、まずわたしがトイレに行ってシャワーを浴びてからね、などとバスルームに閉じこもってしまったら、大変だ。バスルームのドアの下か ら、手が延びてくる。ふぃ~ん、と鳴いてその手でひたすら床のタイルを掻く。ドアもひっかく。それどころか、ドアをとんとん、と叩きもする。わたしが諦め てドアを開けるまで、それは続く。
ドアの下からのぞく猫の白い足は、毎朝の日常風景のひとつになってしまった。