がびのテラス - 軽妙にして辛辣、独断にして優雅に

カートを押す母にタクシーは止まるか

わたしの母は85歳になった。

もちろん85年間も使ってきた身体は「修理」をすることも多くなり、今では弱い膝と腰のせいで何となく前かがみの姿勢だ。外出には折りたたみの椅子にもなるカートを押している。カートがなければほとんど歩けない。杖ではバランスが悪くてほとんど進めないのだ。

そんな母の交通手段はタクシーだ。段差の多い地下鉄やバスにはもう乗れない。
病院に定期的に行かなければならないので、タクシーは行き帰りにはかかせない。

今日は昔からの整形外科で痛む膝に注射を打ってもらう日だが、「いつものことだから付き添わなくてもいいからね」と言うので、タクシーを呼んでひとりで行かせた。

ところが、何時間も帰って来ない。心配になってきたところようやく電話があり「どうしたのよ」と訊くと「タクシーが来ないし、来ても止まってくれないのよ」と言う。「行きはよいよい、帰りはこわい」だ。その小さな病院にはタクシー乗り場もなく、外に出て大通りで流しのタクシーを拾わなければならない。
その後やっと止まってくれたタクシーの運転手はとても親切で、カートをトランクに入れてくれたりと色々世話を焼いてくれたらしい。ほっとした。

「運転手さん、どうして他の運転手さんたちは止まってくれないんでしょうね。わたしがカートを押すオバアサンだからでしょうかね」
「いや、年には関係ないけれど、このごろではお年寄りが増えて、どこに行くにもタクシーに乗るでしょう。ほとんど基本料金の距離で、しかも降りてカートを載せたり降ろしたりしなくちゃならないんで、めんどくさいってひともいるんでしょうね」

その話を聞いて「回送だったとか、ひとが乗っていたってことだってあるでしょ」と笑って言ったら、今度は「いくらオバアサンだからって、そのぐらいは読めるし見える」と怒りだしたので、黙ってしまった。

日陰だったとはいえ、30度以上の4車線道路の隅で20分もタクシーを待っていた母。そして、カートにちょこんと座って「空車」のサインを見るたびに必死で手を振る母。そんな母を無視するタクシーだけとは思いたくないし、わたしだって親切な運転手に遭遇することは多い。

手軽にタクシーを使うお年寄りがこれからも増え続けることを考えると、この年齢限定の乗車拒否が「巷の常識」にならないことを願うばかりだ。

 

2 COMMENTS

pooh

こんにちは!
病院でタクシーを呼んでもらうといいと思います!
と、思ったらtwitterですでにそういう提案があったようですね。
お母さまの病院が大通りに面していないとすると
どこに来てもらうか説明に困るかもしれませんが、大丈夫かしらん。
今日は雨が激しく降ったと思ったら突然ぴーかんになったり変なお天気。
ご自愛くださいませ!

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がび

こんにちはー!
母は受付でタクシーを呼んでもらうのが「悪い、迷惑かもしれない」と思う世代なんですよね…。何度も言ったのですが。
妹がすでにタクシー会社に名前を登録しておいたというのを聞いて、もう一度言っておきました。だって、妹に聞いてみたら、携帯にも番号が登録されているんですよ。年寄りはこういうときに困りますね…。

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