一時帰国していた東京の実家で観た。10分置きに入るCMにゲンナリして、やっぱりDVDでみるほうがいいかもねと思いながら。
舞台を戦前の日本に置き換え、本物のSLや古色豊かな小物と衣装。俳優陣もすばらしく、特に二宮和也のちょっとオタクっぽい性格と西田敏行の抑えた演技が印象に残った。
た だし、野村萬斎の講談調はいただけない。まるで漫画だ。滑稽なだけで、彼が出てくると物語自体が楽しめなくなってしまう。英国TVシリーズのポワロ役デ ビッド・スーシェはフランス語訛りの独特な話し方をするが、彼ほど浮いていない。もしかしたら吹き替えの話し方かと思ったが、吹き替えは観ていないので比較しようがない。
話し方だけではなく、終始不遜で人をバカにしている態度がどうも鼻についた。原作の穏やかで明晰でしかも礼儀を重んじる ポワロを無視したのは失敗。ポワロが最後のほうで激高するのは、それまでの彼の性格であればこそ、驚愕を視聴者に与えるものだ。野村萬斎のポワロは、どう も最初から最後まで唇の端に冷笑を浮かべていて、深みがない。ポワロの苦悩がその冷笑からひとつも見えてこない。
三谷幸喜のポワロ、とし て評価するひともいるようだが、ポワロという人自身が魅力的に表現されなければ、この物語は成り立たないと思うのだ。三谷幸喜の作品はいつも斬新なアイデ アで楽しいが、こればかりはもう少し原作のポワロを研究してほしかった。これではストーリーは同じだが、奇をてらってポワロ自身を全く違う人物に仕立て上 げてしまっていて、他が絢爛豪華で楽しめただけに非常に残念。