がびのテラス - 軽妙にして辛辣、独断にして優雅に

家庭内暴力で殺された日本人女性の話に憤る

西オーストラリアのパースと聞いても、日本では「オーストラリアの一体どこなのだろう」と思うひとが大半だろう。華やかなイメージのある東海岸のシドニー、メルボルンなどとは違い、「世界で一番他の都市から離れている都市」としてギネスブックにも載るくらいだ。一番近い都市は、なんとインドネシアの首都ジャカルタまで行かなければならない。

そんな孤立した静かな中都市でも、犯罪は毎日のように起きている。

今回、そんな犯罪のひとつに判決が出た。あまりの刑の軽さにパースでは問題となっている事件だ。そして、わたしがここに書くのは、日本人女性が殺されたというのに日本のメディアが黙殺していることへの弾劾でもある。

武闘専門家ブラッドリー・ウェイン・ジョーンズ(35)は、先週11月20日最高裁判所において懲役5年、3年後仮釈放の刑を受けた。昨年12月、パース郊外ヨカインの自宅で、10ヶ月と4歳の子供の目の前で妻、サオリ・ジョーンズ(31)を殴殺したためだ。彼女は、その2週間後の12月23日、すでに腐乱の激しい状態で自宅ベッドの上で発見された。パースの12月は盛夏だ。

サオリさんは、ワーキングホリデーでパースに滞在していたときにジョーンズと知り合い結婚した。家族はもちろん全員日本に住んでいる。女性避難所には今までに何度も駆け込み、2008年にはジョーンズは、すでにサオリさんへの殴打で公共労働の判決を下されている。それでも、サオリさんはジョーンズのもとに戻った。
だが、今回はサオリさんは決心していた。女性避難所のケースワーカーと警官とともに、自宅に持ち物をとりに戻ったのだ。彼女はおびえていた。警官は「彼の暴力のせいで警察がここに入るのは、これが初めてじゃないんだ」とケースワーカーに語ったと言う。ジョーンズは、ドラッグと酒でしばしば手に負えないほど荒れ狂っていた。
その後数ヶ月間、サオリさんは二人の子供たちとともに避難所に住み、その後は避難所所有の家に住みながらずっと自分たちで過ごせる家をさがしていたらしい。日本に帰ることも考えたが、子供たちのことを考えるとここにいるほうがいいのではないか、とスタッフにも語っていた。

サオリさんは静かで優しく内気、NOと言えない性格だ。いつか週に2回子供たちをジョーンズの家に連れて行って会わせるようになっていた。ケースワーカーは、何度も必ず友達と一緒に行くようにしなさいとアドバイスしていたらしいが、とうとう12月16日のアポの日に、彼女は姿を見せなかった。彼女らしくない、と考えたケースワーカーは、警察に連絡した。
ジョーンズを訪ねた警官は、そのまま引き返している。
「サオリは二人の子をここに残して、週末から結婚式の介添人をした男と出て行ってしまって、それから全く連絡がない」というジョーンズの話を信じてしまったからだ。
避難所スタッフがサオリさんが乳飲み子を残して出奔するわけがないと非難したが、警官は「結婚式の介添人だった男と、南のほうで楽しんでいるんだろうよ」と言ってそのまま彼らの心配をあしらったと言う。

避難所のほうでは、日夜SMSをサオリさんの携帯に送り電話をかけ続けたが、彼女からはまったく連絡はなかった。日本の家族にも通訳を通して連絡をとった。
その後再三の嘆願により21日にやっと腰を上げた警察が、またジョーンズ宅に警官を送った。
今回、ジョーンズの言ったことは、前回とは全く違っていた。「サオリは、俺の知らない知り合いと一緒に逃げた。」

ようやく事態の深刻さを察した警察は家宅捜査状を発令し、ジョーンズ宅でサオリさんの変わり果てた遺体を見つけた。ベッドの中のサオリさんの遺体はひどく腐乱していたが、ジョーンズと二人の子供たちはベッドルームを閉めきったまま、11日間何事もなく生活していたのだった。

12月11日の晩、サオリさんが子供たちを迎えに来た時、ジョーンズはひどく酔っていた。そして、口論になり妻の頭を殴り床に倒れた彼女をそれでも殴り続けたらしいが、全く覚えていないと言う。我にかえったのは、4歳の子供が「パパ、やめて」とすがった時だ。
ジョーンズは、その昏睡状態のサオリさんの胸元を開け10ヶ月の幼児に乳を与えた。その後、顔の血と吐瀉物を拭き取りベッドに寝かせた。息はあったが、救急車を呼ぶことも医者に連れていくこともしなかった。

今回ジョーンズは故殺罪(殺意のない殺人罪)で起訴された。そして、判決は「殺人に至る暴行」だ。故殺罪よりはるかに軽い。サオリさんの遺体の腐乱が激しく、死因が特定できないためだという。そして「12月23日にさかのぼって発令される」懲役5年だ。仮釈放までは3年。つまり、ジョーンズはほとんど2年後にはまた普通の生活に戻れるというわけだ。

警察の過失は問われないのか。あれだけケースワーカーたちが嘆願していたというのに、助けることはできないまでも、16日にすでに発見していたら死因特定の困難は回避できたのではないか。
家庭内暴力のために尽くすひとたちは多い。そのケースワーカーたちの「犠牲者への正義はどこにあるの?」という悲痛な叫びは一体どこに向かったらいいのだろう。

この判決はなんだ。ふざけるな。

そう考えたのは、わたしだけではないようで、パースの新聞サイトの当記事には続々と非難のコメントが寄せられている。これを書いている時点で、すでに168人ものひとが憤りを記している。彼女が白人ではなく、声が小さくて届かない内気な日本人だったからか。メディアに怒りのコメントを寄せる肉親たちがいなかったからか。それとも、日本にはこのニュースを知るひとが全くいないからか。

そして、そのことについて一言も書かない日本のメディア。
知らないとは言わせない。オーストラリアには特派員もいるはず。東海岸でもこのニュースは広がっているのだ。

歯ぎしりしても、伝わらない。
誰も、こんな遠く離れた土地で無残に命を落とした若い女性のことを知らない。

合掌。

関連記事:
Wife-killer Bradley Jones may be released after three years “Perth Now”
‘No justice’ for victim of violence “The West Australian”
Peke@Perthさんの5月26日のツイート15月26日のツイート2

 

8 COMMENTS

ミッシェル

バンコクでもアメリカ人と国際結婚している日本人女性が先月、高層階から飛び降り自殺?したのですが日本のマスコミには取り上げられていませんでした。離婚話が出ていたらしいのですが、きっと離婚前なので保険金はもちろんご主人に行きますよね?本当に腹がたちました。自殺で処理されたんですよ。
きっと、白人からすると我々アジア人は何の価値もないのだと思うと身体が震えてきます。

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がび

こんにちは。
バンコクでもそういうケースがあったのですね。知りませんでした。自殺ではなかったという疑惑があったのですか?

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ミッシェル

ご返信ありがとうございます。どうも自殺?された女性は以前から喧嘩が絶えず同じフロアーの住人達も何度か喧嘩を見聞きしてた様子でした。そしてまた、彼女が自殺時?に着ていたシャツのボタンがベランダのサッシドアのレール上に落ちていたそうなんです。喧嘩の際いつも日本に彼女が帰っても生活できるだけの金銭は保証するので離婚してくれとアメリカ人の旦那さんが言ったと言っていたそうです。
不動産をかなり持っていた資産家らしいのですが、本当に不思議ですよね??アメリカだったら亡くなった彼女の爪の中から付着している繊維等調べるのですが、こちらの警察はそこまで調べなかった様子です。

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テラ

これはあまりにもひどい話ですね。地元の裁判所の判決は、あまりにもサオリさんという一個人の人権を無視しきったものとしか思えません。これが法治国家であるべきのオーストラリアのやり方なのでしょうか。
彼女のご家族は今どのような心境なのでしょうか。私はこの事件を見て署名運動をはじめてペース市の地方政府に訴えたいと感じてしまうほど、この彼女の死とその犠牲と痛みを無視した非人道的な判決に納得が行きません。

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がび

こんにちは。このあと「Saori’s Law」という法律適用(DVの故殺を禁錮10年から20年に変更するもの)が出ました。詳しいことはこちらに書いてあります。http://www.watoday.com.au/wa-news/saoris-law-a-push-to-reduce-domestic-violence-20120924-26gkd.html

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テラ

情報有り難うございます。少しはオーストラリアの司法に影響があったのですね。ところで、警察の対応についての法改正などはあったのでしょうか。

今回の事件は、警察が早期に対応していれば、起こらずに済んだ事件だと考えています。アメリカですと多くの州で女性に対するDVへの警察の対応は万が一を想定して非常に迅速な対応を行なうのが定められていますが、オーストラリアやイギリス英語圏ではその警察の対応が後手の印象で、そんな男を選んだ女性に非があるので地方政府に文句は言われても対応しない、そう言った警察当局の認識であるのが実情のような気がします。

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パース在住

現在2019年8月です。数ヶ月前にこの殺人者が数キロ南に行ったロッキングハムという場所で、危険運転とドラックで逮捕されました。
信じられません。かおりさんやご家族の無念を思うといたたまれません。

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