細かいものでゴチャゴチャだった引き出しを整理したら、電車とバスの期限切れ回数券が何枚も出てきた。
期限が切れているだけでなく、学生用でもある。自宅から持って出るのを忘れて、そのたびに買ってしまったのがまとめて紛れ込んでいたらしい。
学生であることに年が全く関係ないのが豪州のいいところで、特別料金の恩恵に与っていたのは3年前のこと。電車、バスはもとより、ソフトウェアやら美術館、動物園に映画館まで使えたから、いやはやそれが使えなくなったときにはとても残念な思いをしたものである。
パースの市内と郊外を結ぶ電車には、「学生はオトナに席を譲ること! 譲りたくないなら、成人料金を払いなさい。」などと、でかでかと書かれている。納得のいく通告だが、まさかわたしに席を譲れというオトナもいないだろうとタカをくくり、いつもすまして座っていた。
しかし、一度だけドッキリしたことがある。
混んでいたわけではないのだが、そのときわたしは空いている席も見つからずに立っていた。ところが、そのわたしの真ん前に座っていた十代の女の子が、「座りますか?」と腰を浮かせたのだ。
わたしがうらめしげにヨボヨボと立っていたからではなく、もちろん目を上げればどこにでも貼ってあるそのポスターのせいである。
しかしまさか衆人の注目を浴びて「いえ、わたしも学生ですから」なんぞと言えないではないか。「もうすぐ降りますから結構ですよ」とニッコリとお断りしたが、やはりわたしは学生には見えなかったんだ、と実感。当たり前か。
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今日はたくさん買ってしまった香菜がどうもしんなりしてきたので、それを使って鳥の胸肉をマリネする。
き ざんだ香菜、にんにく、粒こしょう、唐辛子、玉ねぎにライムソースとフィッシュソースをたらして、モルターでどかんどかんと叩いてすりつぶす。このモル ターというのは、欧米でハーブやスパイスをつぶしたりまぜたりするのによく使う、石のすり鉢のことである。同じく石のすりこぎ(ペストール)がついてい て、とても重い。
こんなことをしなくてもフードプロセッサーでびゅんと15秒回せば済むのだが、わたしは何故かこのどかんどかんと叩いてすりつぶすのが好きである。素朴だし、金属で切り刻むより風味が増すような気もする。
余談だが、このモルターで作ったマヨネーズは手をかけただけの価値がある。
さて、マリネしておいた鶏肉をグリルし、最後に余ったマリネソースでもやしを炒める。こういう爽やかでぴりっと辛いソースは、暑いときに軽いタイ米と合わせるととても美味しいのだが、作るのはまだつらいなあ。
夜になって外の気温が下がったとはいえ、昼間の余熱の残るキッチンはまだ28度ほどもある。