squidinkpasta.jpg土曜日のスーパーに行くと、三軒先の魚屋から「モチ肌の小さい中国人女性」が手をヒラヒラと振っている。「丸顔のオジサン」の奥さんだ。確か第三子を出産したとかで、一年ほどあまり顔を見ることがなかったが、乳離れをしたのかこのごろよく店に出てくるようになった。

「ワタシ?」と人差し指を鼻に当てると(実は、この仕草は日本人特有。西洋人は胸に親指を当てる)、大きくうなずいてまた「来い、来い」と合図をする。近づくと、「アナタっ、今日はね、ものすごーく新鮮なイカがあるのよっ」と鼻息も荒い。ウインドウを覗くと、なるほど、目がまだギラギラと光っているピンピンのイカがたくさん並んでいる。
「刺身にしなさい、内臓とってキレイにしてあげるから」と言うが、待てよ、これだけ新鮮ならワタと墨が使える。もう包丁を手にとっている奥さんを制して、そのまま丸ごと袋に入れてもらった。

塩辛にしようか、とも思ったが、今日はちょっとコッテリとしたものが食べたかったので、半身と足をイカ墨のパスタ、半身を前菜の刺身カルパッチオにした。カルパッチオは、ちょいとレモンの酸味を利かせてたっぷりのオリーブオイルで合えれば、下に敷いたサラダもたっぷりと食べられる。

さて、イカ墨のソース。マックロなソースなので、初めて見るとビックリするしろものだけれど、慣れるともう美味しくって、舌や歯までマックロケになることなんかかまっていられない。
そうっと胴体と足を離すと目の上あたりに銀色に光る黒い小さな袋が見つかる。これがイカ墨。その下にワタがだらーりと下がっているので、わたしはこれも使う。両方とも茶碗にしごき出しておくこと。
フライパンにたっぷりオリーブオイルを熱し、つぶしたニンニクをいれて焦げないように香りが出るまで炒める。短冊に切ったイカを加えてさっと炒め、白ワインをどぼっと入れてアルコールをとばし、毎度のことながら自分のグラスにも注ぐ。火を弱火にしてから、前菜のカルパッチオ作りだ。(カルパッチオは先月アップしたので、作り方は省略)

大鍋に湯を沸かしている間に、今度はソースに自家製トマトソースを加える。ふつふつと言ってきたら、火を止める直前にイカ墨とワタを静かに混ぜ合わせる。ワタとイカ墨を一緒にしぼり出したときから、ワタのピンク色と黒が混ざって赤黒いなあ、とは思っていたが、トマトの入ったソースに加えたら本格的に鉄サビ色になってしまった。おや、まあ。アルデンテに茹でたフェトチーネをざざっと混ぜ合わせ、イタリアンパセリのみじんをぱらぱらと振りかけて出来上がりだ。

食べてみたら、ワタも入れちゃったせいで美味しいこと、美味しいこと。ねっとりとしたイカのエキスがたっぷり出ていて、たとえ色がマックロじゃなくても病みつきになりそうだ。

salmonzucchini.jpgまだまだ暑い日の続くパースだ。東海岸のメルボルンやシドニーが二十度をほんのちょっと超える程度だというのに、かたや西のパースでは、次の電気料金請求書を想像したくないくらいエアコンつけっ放しの日々である。

日本ではメーデーは五月だが、こちらでは今年三月三日の雛祭りにあたる。金曜日は生徒なしのスタッフディー、そして三日続きの週末だ。なんだかだらーりと寝そべっていただけで、あっと言う間に終わってしまった。そして来週の準備をしていなかったのに気づくのは、毎週日曜日の午後だ。

休日三日目ともなると、新鮮な食料が尽きてくる。鮭の切り身は冷蔵庫で解凍、あとはほんの少しずつ残った野菜を使い切ることにした。

厚手の鍋にオリーブオイルを熱し、長ネギ(正確に言うと、わたしはもっと太いポワロねぎを使ったが)の白い部分をスライスして放り込み、中火でたまにゆすりながら数分。ネギが透き通ってきたら半輪切りにしたズッキーニとつぶしたニンニクを入れて混ぜ、蓋をしてまたゆすりながら数分。白ワインを「じゃぼ」ぐらいいれて、あとは自分のグラスにそそぐ。蓋をしてまた数分。

その間に、軽く塩コショウした鮭をフライパンで両面焼いておく。

ズッキーニサラダにチェリートマト、赤ピーマン、イタリアンパセリを放り込み、ケイパーを加えて、さっとひと混ぜして火を止める。これでおしまい。わたしはレモンを一切れ添えておいて、最後にテーブルでじゅうと絞る。

時間がなくても、三十分以下でできる夕食なら文句は言えない。

stressbusterkit.jpg実は、さっき十時ごろに帰宅した。
九年生(日本の中学二年生に当たる)の父兄との懇親会があったのだ。九年生の担任は全員出席と言い渡されていたから、覚悟はしていた。七時から九時半までだったので、比較的近くに住んでいる教師たちは、一旦帰宅して食事をしてから戻ってきたようだ。わたしは往復一時間もかけて帰るくらいなら、とそのままオフィスで仕事をしていたがさすがに疲れた。
こんな感じの時間外労働がかならず一学期に何回かある。

今朝の休み時間自分のデスクに戻ってみたら、手のひらにおさまってしまうほど小さな紙の箱がぽつんとあった。開いてみたら、一枚のメモとともに色々なものがはいっている。小さなビー玉、五セント玉、輪ゴム、タコ糸のキレッパシ、チョコレートがひとつ。

メモには、「ストレス撃退キット」とあった。

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1.ビー玉は、あなたがもしかしたら自分を見失いそうなときのために(Losing marbles‐ビー玉を無くす、は慣用句で「自分を見失う」とか「気が狂いそうになる」という意味)
2.五セント玉は、あなたが無一文にならないために
3.輪ゴムは、あなた自身を自分の限界よりさらに伸ばすために
4.タコ糸のキレッパシは、あなたの人生がバラバラになる前に、一個ずつ繋ぎとめるために
5.チョコレートは、いつも誰かがあなたのことを気にかけているってことを思い出させるために

PS: もしチョコレートを無くしちゃって代わりが欲しいときには、いつでもわたしに会いに来てね
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こういう細やかな心遣いをするのは、仏語担当の若いフランス人教師だ。わたしには絶対できそうにない、気の利いたユーモアが詰まった小さなプレゼント。今日懇親会で遅くまで学校にいなければならない語学教師に配っていたらしい。

懇親会前に、帰宅する直前の彼女を捕まえて心からお礼を言った。

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