ようやくお腹がすいたと思ったら、すでに八時を回っている。お昼に飲茶をたらふく食べてしまったせいだ。週末に飲茶をするといつもこうだが、「いろいろなものを少しずつ」でついつい食べ過ぎてしまう。
飲茶のあとで閉店ぎりぎりに飛び込んだスーパーには、案の定肉はあまり残っていない。どうしようかなあ、と精肉コーナーで思案にくれていたら、スタッフがラベルの束を持って現れた。このオニイサンが来ると閉店前の値下げが始まる。ざっと見渡して、月曜日に賞味期限の切れるパックを肉の種類ごとに手際よく集め、ラベルを貼り、マジックで二ドル(約140円)引き、三ドル(約210円)引き、または半額の値段を書き、終わると次の肉の棚へ行く。オニイサンにはもちろん常連の「金魚のフン」たちがいて、彼が移動するたびにその輪が動き、ラベルの貼られたパックをさっとさらってカートに放り込む。
身長でははるかに負けているわたしはこの「金魚のフン」軍団の輪の中に入ることができない。いきおい、彼らも目をかけないようなパックにのみありつけるわけだが、今日は子羊肉(ラム肉)のフレンチ風コトレットだった。2キロ以上のロースト肉か1枚300グラムはあるステーキ肉を捜す彼らには、どう考えても小さすぎたらしい。
コトレットはチョップとも言う「骨付きの背中肉」のことだが、オーストラリア風は骨に沿って切ってあるだけで、「フレンチにしたコトレット」(Frenched Cutlet)などというわけのわからん名前になると、骨の部分から肉を削ぎとってきれいな曲線が見えるようにしてある。他の肉でも同じように「フレンチにしてある」ものがあるが、ラムとなったらかなり小さい。骨の部分をつまんでかぶりついたら3口でオワリだ。パックにはこれが3つ。
八時になってようやく冷蔵庫から取り出したのは、このラム肉のパックだ。
まず、フライパンにオリーブオイルを熱している間に重い石のモルターを出し、刻んだ黒いカラマータオリーブと庭からむしったローズマリを入れてがんがんと叩く。オリーブオイルをたらしながら、またがんがん。ほとんどクリーム状になったら、塩コショウしたラム肉をそっとフライパンに入れ、まず片面を焼いている間に表の肉の表面にこのオリーブクリームを塗る。ひっくり返して2−3分で焼き上がりだ。
またひっくり返して、火をすでに止めたフライパンで温めておく。
皿にトマト、ヒヨコ豆、ミントの葉を散らし、ちぎったフェタチーズを少しのせて、オリーブオイルとバルサミコ酢をたらす。あとは、ラム肉のコトレットをぽんぽんと置くだけ。
こういうものを「料理」と呼んでいいのかどうかはわからないが、オリーブとローズマリの香りをたっぷり含んだラムは柔らかくてとても美味しい。こういうものはナイフとフォークなど使わずに、指でちょいとつまんでかぶりつくのがよろしい。