がびのテラス - 軽妙にして辛辣、独断にして優雅に

土足禁止

友達が訪ねてきた。
街の日曜ショッピングに出たので「ついでに」電話をしたのだと言う。「ついで」だろうが何だろうが、彼女は家を新築して遥か彼方に住まいを移してしまったので、連絡してくれるのは嬉しい。
このところ、3人ほど教職を離れて別の仕事に移ってしまったし、1人は子供が生まれて大忙し、一人はロンドンの高校に出稼ぎに行ってしまった。大学で学んだ友達は、ほとんどがおいそれと会えない状況なのだ。

話をしてみれば昔のまま、同じ教職に身を置くので色々通じることも多い。学校で働いていると、同僚には決して話せないということも出てくるので、そうした事情を損得なく話し合えるひとはありがたいのだ。
しばらく話してから、ふと彼女が聞いた。

「ねえ、外のドアマットに書いてある日本語はなあに?」

半年ほど前の掘り出し物マーケットで見つけたドアマットだ。中国人が売っていたのだが、漢字なんぞ書いてあるので面白くて購入したものだ。日本語では「土足厳禁」でもっとキビシイが、これは「土足禁止」である。
別に靴ではいることを禁止しているわけではないのだが、アジア人またはその習慣を知っているひとたちはほとんどドアで靴を脱ぐ。その他の普通の「オーストラリア人」は靴のままはいってくるが、わたしはそれほど気にしないようにしている。

それでハタと気づいた。
このドアマットを買ってから、玄関ドアからはいる前に外で靴を脱ぐ「漢字が読めるひと」が増えたのだ。それまではドアから入ってから靴を脱ぐひとが多かったのだが、ドアの外にこんな漢字がどかんと書かれていたら、言わずもがな、そこで脱いでしまうのだろう。
そして、わたしが「リビングルームに入る前にはせめて靴を脱いでくれないかなあ」と思うようなオーストラリア人たちは、もちろんそんな漢字が読めるはずもないのだった。
結局全然用を足していないのだな、このドアマットは。

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