食話休題: 2005年11月アーカイブ
今日は一日中家に引きこもり、採点と成績をつけていた。家でほとんど「下ごしらえ」をしておかないと、成績表自体は学校のネットワークからでしかインプットできないのだ。水曜日の午前中が締め切りだから、明日と明後日はどうやら夕方かなり遅くまで学校に残って、ひたすら成績のインプットとコメント書きになりそうだ。何と二百人分。
しかし、これさえ終わってしまえばあとは楽チンだ。
こういうときは、日曜日と言えどゆっくり料理なんぞしている暇はない。手早く「炒めもの」だね、決まり。
大きな海老はどうやら東南アジア(たぶんタイだろう)からの輸入品だが、殻をむいても身がしっかりしていて透明だ。新鮮なうちに冷凍された証拠。尾だけ残して殻をむき、背中から筋をしっかりとる。「こんなもん、とらなくても」と思うひともいるだろうが、これだけで確実に味が違う。
レモンの皮、ショウガ、辛い辛い赤唐辛子は千切りにしておく。忘れちゃならないのは、大量のハーブ。今晩使ったのは、庭で豊作の香菜とミントだ。これは洗って手でちぎっただけ。レモンは絞りやすいように半分に切っておく。
さて土曜日に買ってきたのは、ベイビーズッキーニと呼ばれる極太サインペンくらいの太さと長さしかないものだ。これを斜め輪切りにして、下ごしらえはオシマイ。
ピーナッツ油(中華料理の炒め物はこの油だ)をフライパンに熱し、レモンの皮とショウガとともに海老を放り込み、塩コショウしてからざざっと炒めること二分。海老が不透明になって背中の筋をとったところが開いたら、ハーブ、唐辛子、ベイビーズッキーニを加えてさっと混ぜ合わせるだけだ。ベイビーズッキーニは生で食べられるくらいだから、ほとんど火は通っていないも同然のほうがしゃきしゃきとしていて美味しい。
あとは、レモンをたっぷりと絞り、ナンプラーソースで味を調える。あっと言う間にできる、さっぱり中華の一品だ。
もう少し前、黄色い花がまだ先っちょにくっついているくらいのときには、ズッキーニは小指ほどの大きさだ。これは本当に季節ものだから、ほとんど二週間ほどしか市場に並ばない。スイスにいたときにも、ズッキーニフラワーは高価で、スーパーではなく街の小売店や市場でしか売っていなかった。
こちらでは、まだ見たことがない。実は、このズッキーニフラワーは塩コショウして小麦粉をはたいて揚げるだけで、いやほっぺたがドサリと落ちるほどおいしい。そして、この夢にまで見た贅沢な揚げ物を食べるためだけに、わたしは庭の隅でズッキーニを育てているのだ。そろそろ花が咲きそうな気配なので、今から舌なめずりをしている。

ライチーは、北タイのチェンマイに住んでいたときに初めて缶詰ではないものを食べた。借家のその大きな庭のど真ん中に、大きなライチーの木があったからだ。
そのときからもうすでに十年以上たってしまったが、ライチーのあの透明で甘い果肉は忘れられない。だから、バンコクにいようがパースにいようが、季節になればどうしても食べたくなる。
今日、例によって土曜日の買出しに出かけたら、八百屋の片隅にあるライチーの黒ずんだ赤い果実が目にはいった。もうすぐ十二月だから、どこか東南アジアの国からの輸入物だろう。珍しい果物の常で法外な値段がついているが、取り合えずそのまま食べるものをいくつかとついでにサラダにいれるものもいくつか。
ライチーは固い皮をむいて指でちぎり、ロケット(ルッコラとも呼ばれる、ゴマに似た味の生食用野菜)と一緒に皿の上で合わせておく。
イカは開いて包丁で表面に賽の目模様をつけておく。ライムの皮は千切り。フライパンにオリーブオイルを熱して、イカとライムの皮を放り込み、ぱぱっと塩コショウして二分くらい。賽の目模様がきれいに現れたら、チリジャムを大さじ一杯ほど加えてからめる。
このチリジャムは、わたしの手作りだ。甘くて辛くて、これを使うだけでイカ、タコ、鶏肉などを簡単に炒めることができる。(保存食なのでここにはレシピを書かないが、誰か作りたいひとがいればまた追加する予定)
チリジャムがからまったら、ここにライムジュース(皮を使ったもの)をひとつぶんたっぷり入れ、ついでにバージンオリーブオイルもたらりとたらして、混ぜる。
そのまま皿のサラダの上に乗せて、オリーブオイルをまたほんの少しサラダにたらし、コショウをかりかりと挽いて、おしまい。
サラダに甘い果実を使うのは、生ハムにメロンを添えるのと同じだ。ミスマッチだが、意外や意外、互いに引き立てあって微妙なハーモニーが味わえる。
毎度この季節になると、赤ペンの消費量がぐんと増える。
先週から始まった採点のせいで、すでに二本使い切ってしまった。成績のよい子には、もっとよくなるようにと励ますコメントを残しているし、バカタレにも一応「もっと勉強せーよ、そしたらよくなるかもよ」とコメントを書くからだ。果たして、読んでくれる子っているのかねえ、とため息が出ることもしばしば。
今日は気温が三十二度まで上がったので、なんだか疲れてしまって体がだるい。それでもまだ答案がどかーんとダイニングテーブルに鎮座しているため、仕方なく採点を再開した。でも、やっぱり何か食べなくちゃね。
週末に買っておいたポークコトレットを、冷蔵庫で朝から解凍しておいてよかった。これがなかったら、またインスタントラーメンかインスタントなんとやらになってしまう。
コトレットというのは、普通脂身を取り除いてある骨付きのアバラ肉ステーキのことだ。どっしりとでかいオーストラリアン・カットは、骨が肉と一緒に切られてしまっているが、、ヨーロピアン・カットと呼ばれるものは、アーチ型の骨がきれいに長く残されている。今日のは、このヨーロピアン・カットの豚肉だ。
のんびりと凝ったことをしている暇はないので、とりあえずマリネしてしまうことにして、オリーブオイル、庭からむしってきたローズマリ、唐辛子のみじん切りを合わせ、塩コショウしてから肉に塗っておく。その間に、シルバービーツという野菜を洗う。ちょいと固めで巨大なほうれん草のようなもので、チーズパイの具によく合うので買っておいたのに、今だに作っていない。これはざく切りにしておく。
五分ほどマリネをして、そのままテフロン加工のフライパンでじゅうじゅうと焼く。同じフライパンにオリーブオイルを足して、つぶしてざくざく切ったニンニクひときれを香りが出るまで炒めたら、シルバービーツを放り込んでしんなりするまで炒め、最後に缶詰のヒヨコ豆をひとつかみ。ざっとからめて塩コショウ。
さっぱりさせたいので、レモンを一切れ添えた。
調理時間十五分。
このシルバービーツはもちろんほうれん草でも代用できる。そのほうが柔らかい。わたしは、この歯ごたえのある肉厚のシルバービーツが大好きだが、普通はもっと煮込んだりパイなどのオーブン料理に使うことのほうが多い。このシルバービーツには、ヒヨコ豆が意外によく似合う。と思ったら、この両方ともかなりひんぱんにギリシャ料理に出てきているようだ。何だ、わたしの発見じゃなかったのね。
今年の第四学期は例年より早めに終わってしまうので、十一月もまだ終わらないというのに期末テストと採点で大ワラワだ。「師走」は師(センセイ)も走るほど忙しいなどと言われるが、いつも走り回っているわたしのようなビンボー暇ナシ教師は、この時期からもうほとんど足が地に着いていない。
今日も今日とて、どっさりと十センチほどの答案の束を持って帰ったばかりだ。
しかし、採点しなきゃならなくてもハラは減る。土曜日に買っておいた鶏肉の胸肉は、食べないと悪くなってしまいそうだし。
しかも、この時期は春に種からまいておいたハーブが豊作で、食べきれないほどある。今日は、そのうちのオレガノをたっぷり使ってケイジャン風チキンに。
「ケイジャン」(Cajun) は米国ルイジアナ地方フランス移民の子孫たちのことだが、料理の世界ではケイジャン・スパイスというのも有名だ。ニュー・オーリンズで初めてこのスパイスを使う「黒焦げチキン」を食べたときには、あまりのマックロコゲに一瞬ひるんだ。が、魚にもチキンにも合うスパイシーなマリネは、それ以来わたしのお気に入りでもある。市販のビン入りも手にはいるが、ちょいと塩気が多すぎるような気がする。自分で作るのは、ハーブとスパイスさえ揃っていれば実は大変簡単だ。
庭からむしってきた大量のオレガノを刻んでボウルにいれ、そこにつぶしてからみじんにしたニンニク、赤唐辛子のみじん切り、パプリカ、クーミン、黒コショウ、塩をいれ、最後にオリーブオイルをいれてなじませる。これが、ケイジャンスパイス。鶏肉をいれてそのスパイスを塗りたくり、冷蔵庫にいれて十五分ほど。
その間に、コロコロ野菜のサラダを作る。赤玉ねぎ、トマト、キュウリ、ピーマンを切って、これまた庭からの香菜をぱらぱらとかけ、オリーブオイルとレモン汁に塩コショウで味を調えるだけ。
あとは、テフロン加工のフライパンで鶏肉を両面マックロコゲにする。いや、マックロコゲと言ったって、スパイスが焦げるだけで肉をそんなに焼いて固くするわけではない。
ちょいと変わった味のスパイシーチキンにシンプルでカラフルなサラダを添えて、三十分もしないうちに「いただきますう」だ。さて食べたら、採点、採点。
日本では「イイダコ」と呼ばれる小さなタコがある。目と目の間に金色の紋があるというから、もしかしたらこちらで売られているベイビー・オクトパス(Baby Octopus)は同じ種類ではないのかもしれない。
スイスのドイツ語圏にいたときには、イタリア人だけが買い求める大きな生ダコが魚屋に売っていた。彼らは、ほとんどトマトソースの煮込みに使っていたようだが、わたしはこれを茶葉を入れた大鍋で茹で、スライスして食べた。要するに、タコの茹で刺しですな。
トコロ変わって、こちらオーストラリアではこのかなり小さいサイズのタコをバーベキューするのが一般的だ。値段もかなり安い。
今日のランチは一人分しか作らないので、わざわざ庭のバーベキューに火をいれるまでもない。フライパンで充分だ。タコは洗ってから半分に切っておく。ナムプラーソース(フィッシュソース)、ショウガのすりおろし、刻んだ唐辛子、レモン汁を合わせ、最後に庭からむしってきた香菜の茎と根を刻んでいれ、タコをマリネして冷蔵庫で三十分。
香菜の根と茎を捨ててしまうひとが大半だと思うが、これは大間違い。茎と根はかなり香りがきついので、煮物や炒め物に使えるのだ。サラダなどで生の香菜をあしらうときには、もちろん葉の部分だ。このほうが優しい味わい。だから、たまにスーパーで香菜を買って香菜の根がちょん切られているのがわかると、わたしはひそかに罵る。中華食品店でこんなモッタイナイことをしたら、客から袋叩きにあうよ。
今回は庭に香菜があるので、引っこ抜けばよいだけだから簡単だ。根も茎もちゃんとしっかりとついている。ちなみに、庭で香菜を作ったことのあるひとは知っているだろうが、新鮮なものは市販のものとは格段に香りが違う。庭から引っこ抜いてきただけでも、キッチンに戻るまでに、手から香りが立ち上ってむせかえるほどだ。もっとも、香菜がきらいなひとには、こんなに恐ろしいことはないだろうが。
さて、フライパンに油をひいて(中華料理風のときにはもちろんわたしだってオリーブオイルは使わない。菜種油かピーナツ油だ)煙が立ち昇るほど熱したら、一気にタコをいれてすばやく炒める。ゆっくりなんぞしていたら、タコが固くちぢまってしまうからだ。
これをアジアングリーンと呼ばれるサラダミックスに汁ごとざざっとかけてしまう。あとからもうすこしすっぱくしたかったら、レモンをじゅうと絞ってやる。最後に、香菜の葉の部分をぱらぱらっと。
この小さなタコは、煮付けにしても美味しいだろうと思う。ショウガをいれて甘辛く煮たやつだ。そういえば、もうほとんど純粋な和食を作っていないことに気づいた。作るのは友達が来たときに、寿司やらナスの田楽を披露するくらいだ。
正月には東京里帰りなので、母の手作り料理(おお、それからおせち料理なんていうのもあった)を堪能する予定。
まだ本調子じゃないが、冷蔵庫はカラッポ、ゆきちゃんの餌もない。仕方なくスーパーに寄ったら、隣の魚屋のオヤジが「おいで、おいで」をしている。
以前住んでいた場所の近くにあった魚屋は、「ちょいと寄る」にはココロモチ遠すぎる。引越し先から四ブロックほど先の店はやはりとても新鮮な魚を扱うし、スーパーの隣という好条件、頻繁に買い始めたら何も買わなくても挨拶くらいはする仲になってしまった。
「普段は冷凍の魚は勧めないんだけど、これは美味しいよ」と言う「顔は中国系丸顔、しかし話してみたらオーストラリア英語」の魚屋のオヤジが指差していたのは、BASAという魚だ。
「ベトナム産なんだけれど、淡水魚にしては臭みがないし、ムニエルにも揚げ物にも蒸し物にもイケるよ。ナマズの一種なんだ」
ふうん、とキレイにさばかれてフィレになっている白身魚を見たら、お腹がすいてきた。申しわけなくも一枚だけ買い求め、約百二十円払う。
淡水の白身魚は「煮崩れ、焼き崩れ」しやすいので、ぱたぱたと小麦粉、塩、コショウをふる。こうしておけば、フライ返しで簡単にすいと裏返せるからだ。これが、フランスのムニエール。ホントならバターをたっぷり熱したフライパンで焼くのだが、あまりバター味の魚が好きじゃないわたしはオリーブオイルで。
焼いている間に、トマト、葉玉ねぎ(長ネギ代わり)、香菜を荒みじん切りにしておく。焼きあがった魚を取り出したら、今度はヴァージンオリーブオイルをたっぷりいれて、中火でその荒みじんをすべて軽く炒め、火を止めてからたっぷりとレモンを絞る。これを魚にかけて、出来上がり。
あまり期待していなかったのだが、いや美味しい。ムニエルにできるほどしっかりしているのに、中の肉は驚くほど柔らかくしっとりとしていて、わずかに甘い。淡白なので、オリーブオイルをたっぷり使ったヴィネグレットソースをかけたのは正解だった。
ゆきちゃん、今晩はホンのひとくちだけしかやらないよ。
昨日庭の手入れをしていたら、毛虫に食われて全滅したと思っていたセージが復活していた。茎だけになってしまったセージを見てため息をついていたのが、つい二ヶ月ほど前。世話も全くしていなかったし、死んじゃったと思っていたから肥料も与えていない。裏庭(というより横庭)に生えていたから、あまり目にもとまらない。ずいぶんとたくましいハーブだ。セージはかなり香りが強くて、豚肉などのローストにとてもよく似合う。現金なわたしはにやりとほくそえんだ。
さっそく学校の帰りに大きな豚の腿のカタマリを購入。皮がついているロースト用のものだ。その皮にナイフで切れ目をいれて、そこにニンニクのスライスとセージをねじこむ。あとはコショウと塩をたっぷりすりこんで、200℃のオーブンで一時間十分ほど。一キロのカタマリはこのくらいかかる。
その間に、季節の野菜カリフラワーとミントのスパイシーサラダを作る。
フライパンにオリーブオイルを熱し、カリフラワーの乱切りを焦げないように十分ほど炒める。濃い目の黄金色になったら、クーミン、ターメリック、パプリカを加え、香りが出るまでさらに炒めて火からおろす。パプリカのおかげで色はとても鮮やかな黄色だ。
カリフラワーを冷ましている間に、オレンジ半分を絞り、オリーブオイルをまた大さじ二杯ほど加えてかしゃかしゃと混ぜ、塩コショウしておく。これが、ドレッシングだ。
冷めたカリフラワーに庭からむしってきたミントの葉とパインナッツを合わせ、ドレッシングを混ぜて出来上がり。
これに焼きあがったローストを添えて、ぱらぱらとスマック(中近東のスパイス)を振りかける。ローストはもちろん大量に余るが、これはスライスして冷凍しておけば毎日のランチに。
カリフラワーは茹でずにそのままゆっくりと炒めただけだから、まだ歯ざわりが残っていてとても美味しい。エキゾチックなスパイスをふんだんに使っているので、風味もよい。このサラダは、よく夏に庭でバーベキューランチをするときにもよく登場する一品だ。友達の持ち寄りパーティで、「何かサラダを持ってきてくれない?」と聞かれたときにも持っていく。ちょいと変わっているので、結構評判なのだ。


