食話休題: 2005年8月アーカイブ
マカデミアナッツを初めて食べたのは、ハワイ留学中の年上の従兄弟がお土産に持ってくれたときだと思う。わたしはまだ小学生だった。ナッツと言えば、まだピーナッツやらアーモンドしか市場になかった時代だから、とても珍しく、そして異国の味がした。
その後もよく、ハワイ土産と言えばマカデミアナッツ・チョコレートをもらった。だから、調べたわけでもないのに、何となくマカデミアナッツはハワイ原産だと思い込んでいたふしがある。
実は、マカデミアという木がオーストラリア原産だと知ったのは、つい最近のことだ。
日曜日のファーマーズ・マーケットで、丸い木の実を売っている屋台を見つけたのだ。何の実だろう、と聞いてみて初めてわかった。
「生のままでも食べられますが、低温でローストしたほうが風味がよくなります」
その店では両方試してみたが、確かにローストしたもののほうが風味も歯ざわりもよい。わたしが外国人で、一度も木の実のままのマカデミアナッツを見たことがないと察したのだろう、お店のオジサンは手のひらにはいるほどの鉄製の「木の実割り」を見せてくれた。
「片手でぎゅっと握って割るくるみ割り器では、この固くて厚い殻は割れませんよ。こういうのを使わないと」
三角形のてっぺんに水平なねじ回しがついている。これを握って回すと、鉄ねじが下に向かってぎりぎりと押され、固い殻が見事にひしゃげるのだ。
「持っていないときは、タオルで包んで金槌でがんがんと叩いてくださいね」と言われ、1kgほどの大きな袋を買った。
うちに帰って80度のオーブンに入れ、ときどき殻にひびがはいるのを確認しながら2時間ほど気長に炒って、できあがり。さてどうしよう、金槌でひっぱだくかな、と思っていたら、ちょうど電話をかけてきた友達がその「マカデミア割り」を持っていると言う。
マカデミアナッツをサカナにワインかビールでも、と誘ったらすぐに乗ってやって来た。
さっそくその「マカデミア割り」を使ってぎりぎりとねじを締めていくと、なるほど簡単に割れる。ゆっくりと炒った実はまだほのかに温かく、そしてぷうんとよい香りが鼻をくすぐる。
夕焼けを見ながら、パティオでばりばりとマカデミアナッツを割り、食べ、ビールを飲む。すでに六時になっていた。
日が長くなっていることに気づくのは、こんなときだ。
いつも行くショッピングセンターの肉屋は、とても新鮮で美味しそうな肉を切り売りしてくれる。オーストラリア人じゃあるまいし、毎回1-2kgのかたまりを買うわけではないので、少々肉が食べたいときに「そこのヒレんとこの肉を2cmくらい切ってください」と言えるのは、とても重宝なのだ。
わたしの住んだ国々の中で、スーパーマーケットで肉を切って売ってくれないのはオーストラリアだけだ。肉売場は大きいのだが、グラム単位で買えるのは鶏肉、魚、ハム・チーズ、そして惣菜類が主で、牛肉、豚肉、ラム肉は全てパック売りである。
スーパーの肉を買わないわけではない。以前は苦手だった土曜日の閉店まぎわのタタキ売りでも、群がるデカイ人々の間からそっと入り込み、いつの間にかサインペンをもった店員の横に並んで、半値が書かれたとたんパックをさらうテクニックさえ身に着けたくらいだ。えへん。
しかしその隣の肉専門店の前を通ると、少々高価だが見るからに美味しそうな肉が整然と並んでおり、夕食にあまり時間をかけたくないとき(って、時間をかける晩のほうが少ないが)、ささっと焼けるものを切ってもらうのもわたしの楽しみのひとつである。
今日は、ラム肉のももが燦然とかがやいていたので、ちょっと厚めにして4切れほど包んでもらう。
両手じゃないと持ち上がらない鉄製のフライパンで焼くと、ステーキは本当にきれいにできる。腿肉のミニステーキは、ミント、クーミン、チリパウダー、ニンニクパウダーをまぶし、塩コショウしてから、オリーブオイルでミディアムレアに。
今回は厚めと言っても2cmぐらいなので、さっと焼いてからホイルでくるんで2分くらい落ちつかせるだけ。
サラダはベビーサラダ菜ミックスに、きゅうり、チェリートマト、を合わせて、サンドライ・トマトと黒オリーブのスライスを加え、ドレッシングはオリーブオイルと白ワイン酢、塩コショウのみのシンプルなものにした。ステーキがスパイシーだし、サンドライ・トマトとオリーブで十分味がひきたつからだ。
まだ温かいラム肉のスライスをのせると、モロッコ風サラダのできあがり。
そりゃあ、時々甘いものが食べたくなるときもある。毎日とは言わないが、特にゆっくりと過ごす週末などには、いきなりそんな欲望がむくむくとアタマをもたげる。
週末の夜に、店が開いているわけもない。
お菓子作りというものは、手順さえわかってしまえばそんなに難しいものではないし、ましてやこちらで手に入るSelf-rising Flour(ベイキングパウダー入り小麦粉)を使うと、粉をさらさらと混ぜる必要もないので、手間もかからない。
冷蔵庫をのぞいてみると、青りんごがある。卵も1個残っているし、貯蔵室にはカシュウナッツもある。こうなりゃ、当然マフィンでしょう。
市販のものは、りんごをおろして使っていることが多いが、カタチが残っているほうがはるかに美味しく感じられる。それを2個荒く刻んで、ブラウンシュガー1カップ少しと合わせておく。同じくカシュウナッツもきざんで、1カップ。
ベイキングパウダー入りの小麦粉がなければ、小麦粉2カップにベイキングパウダー小さじ2を合わせてふるい、そこにオールスパイスとシナモンを小さじ1杯ずつ…と思ったら、シナモン「パウダー」がないじゃないか。乾燥スティックはあるのに…。そこで、仕方なく重い石臼を出し、スティック2本をどかんどかんとつぶすこと2分。やっと細かくなったものを加え、溶かしバター125gをどろどろと混ぜ、カシュウナッツと卵一個をブチこみ、ねっとりとした砂糖りんごをざっと混ぜて出来上がり。
あとは、マフィントレイに紙カップをおいて、材料をスプーンで落とすだけだ。180度のオーブンで15-20分くらい。
シナモンのよい香りがオーブンからただよいだすと、重い石臼で汗をかいたことなどきれいサッパリ忘れている。


