食話休題: 2005年5月アーカイブ
土曜日の夕方、やりだすと止まらない雑草むしりに精を出していて、ふと気がついたらすでに4時半。ぎえ、店が全部閉まるまであと30分。小さなシャベルを放り出して、泥のついたジーンズときったない手のまま車に飛び乗る。
この時間のスーパーは大変混んでいるが、もっとも人が群がっているのは精肉売場だ。サインペンを持った店員が、肉のパックに次々とシールを貼って半額の値段を書き込んでいる。巨大なカートに食料品を満載したひとびとが輪を作っちゃっているので、背も幅も買物の量も完全に負けているわたしには、とてもはいる余地がない(というより、売場の棚が見えない)。
「犬猫用生肉の棚」からウロウロと隙間を見つけようとしていると、わたしの横から手が伸びてひとつの小さいパックがその棚に戻された。ペット用ではない、仔牛のすね肉だ。買うのをやめたが、めんどくさいので取り合えず冷蔵の棚ならどこでもいいや、と戻していったらしい。
大きな脛骨が真ん中で存在を主張している。決めた。オッソ・ブッコだ。
たまねぎ、にんじん、にんにくをブツ切りにしてからバターで炒め、柔らかくなったら赤ワイン、ビーフコンソメ、缶トマト、レモンの皮を入れて煮立たせる。火を止めて、ベイリーフ、タイム、オレガノをぱっぱっと加えておく。
肉は、フライパンで両面ともきれいに焦げ目をつける。普通のイタリア料理は、ほとんどオリーブオイルを使うが、このオッソ・ブッコだけはバターだ。もちろん、肉もバターで焼く。
オーブンは180度、肉の上からたっぷりソースをかけて1時間ほどコトコトと煮込む。
実はここからが自己流なのだが、わたしは肉を取り出したソースを煮つめて半分の量にしてもそのままでは使わない。ミキサーでクリーム状にしてしまうのだ。ごろごろと野菜がそのまま残っている素朴なソースも好きだが、ミキサーで回すと意外なほど口当たりのいいソースになるからだ。
肉を焼いている間に、今度はポレンタだ。英語ではコーンミールとも言うが、これを沸騰した同量の湯にバターを落としてから、さらさらと入れてかき回しているとクリーム状になる。塩コショウして、おしまい。
おお、忘れていた。
グラモラータのないオッソ・ブッコなんて、わさびの入っていない握り寿司のようなものである。何のことはない、パセリ・ニンニク・レモンの皮のみじん切りミックスだ。しかし、これをぱらぱらとかけると、こってりしたイタリアン煮込みがぴりっと輝く。
かなり時間のかかる料理だが、実際に調理している時間はそれほどでもない。
でかい脛骨のど真ん中でふるふると震えている骨髄は栄養たっぷり(カロリーもたっぷり)で、これをずずっとすくって食べたらもうやみつきになる。ミキサーでクリーミィになったソースは複雑な深みを増して、柔らかい仔牛肉にからみつく。
こういう料理を、わたしのように普段15分以内で作ってしまう「ファスト・フード」に対して「スロウ・フード」と呼ぶ。もちろんローファットだの健康だのとは無縁だが、素朴でこってりとした素朴なイタリアン煮込みは週末にとてもよく似合う。
家の横にも小さく細長い庭、というより2mほどの幅の通り道がある。ここは家の側面なので4-5mほどあり、引っ越してきてからすぐに植えた様々なハーブのおかげですっかり「ハーブジャングル」と化してしまった。最初から庭師を頼んで植えたので、それなりに庭石とハーブで洒落たつくりにはなっていたのだが、半年以上たてばもう嬉しいのを通り越して、「どうしよう、こんなにたくさんのハーブ」とため息のひとつも出てしまう。もう庭石なんぞ、半分以上隠れてしまっているのだ。
そんなわけで、今日の晩ごはんは盛大にハーブを使った「スナッパーのハーブオイル・オーブン焼き」だ。スナッパーは鯛の一種だが、身が厚くてボリュームがあるわりには淡白で味がつけやすい。
まず、ジャガイモをスライスして、オリーブオイルに塩コショウで味をつけオーブンに放り込む。その十分ほどの間に、バジリコ、オレガノ、イタリアンパセリ、ニンニクをきざみ、塩コショウして、オリーブオイルとまぜておく。
オーブンからトレイを出し、ジャガイモの上から順番にレモンスライス、スナッパー、そして最後にハーブオイルをたっぷりかける。チェリートマトをぱらぱらと散らして、あとは12-3分ほど待つだけ。トマトがはじけてきたら、出来上がりの証拠だ。
火を通したレモンはジューシーになっているので、たっぷりとスナッパーにしみ込ませ、ハーブの香りと味を楽しみながら熱いところをほおばる、ほおばる。
中華食品店に行くと、ほぐした蟹肉が冷凍されて売られている。ブルースイマー(Blue Swimmer)と呼ばれるワタリガニに似たものは大変美味しいのだが、いかんせん爪が細くてとても食べにくく、身をとりだすだけでも大変だ。だから、ほとんど同じくらいの値段で売られている冷凍の殻なし蟹肉を見たときには狂喜乱舞。冷凍庫にいれておいて、必要なときにガチンと包丁の柄でたたいて壊し解凍するだけだ。
今日はこれを使って、ムール貝と蟹のスパゲッティを作ることにした。少々蟹の殻のエキスが欲しいので、ムール貝と一緒に一匹だけはブルースイマーも買った。
大きな中華なべでニンニクと唐辛子のザク切りをオリーブオイルで炒め、香りが出てきたらムール貝と蟹の殻つきを入れてさらに強火で炒めると、かわいそうなムール貝が開きだす。蟹の殻を取り出して、そこに解凍した自家製トマトソースをさっと混ぜ合わせる。蟹肉をたっぷり入れて、ソースの出来上がり。
ゆでたてのスパゲッティと軽く混ぜ、庭からむしってきたバジルを刻んでふりかけた。
トマトソースはメインではないので、実際は色がほんのりつくくらい。


