食話休題: 2004年4月アーカイブ
ココナッツミルクがあったので、昨日の市場で買ってきたバジリコと茄子を使ってタイ風激辛チキンカレーを作ったが、今回はカレーの素作りはやーめた、ということで市販のグリーンカレーペーストを使う。面倒くさいときには、臨機応変・変幻自在がわたしの得意とするところなのだ。
カレーペーストをじっくり炒めて香りを出してから、ショウガと鶏肉、そして茄子のブツ切りを加えて炒める。そこに生グリーンチリのブツ切りもぱっぱっぱと散らしてやる。鶏肉に火が通ったらココナッツミルクを半分加えて混ぜ、乾燥コブミカンの葉、レモングラス、バジリコを加えて20分くらい煮てから味を整えて、ココナッツミルクの残りを加えて一煮立ち。
サラサラのカレーにはタイ米がよく似合う。しかしチリを追加してしまったせいで、いやはや辛いこと、辛いこと。
日曜日恒例のファーマーズ市場に行った。
相変わらず仏頂面を下げたおじさん、おばさんたちが、新鮮な野菜と果物を売っている。
しばらく来なかった間に、市場の隅っこに新しくカフェが出来た。あまりひとは入っていないが、まだ朝である。焼きあがったばかりのパンや菓子がウィンドウに並んでいて、朝食を食べないわたしの胃がくくうと鳴った。
どうしても食べたかったのが、このホウレンソウとマッシュルームのキッシュ。あんまり大きかったので自宅ランチでゆっくり食べようと思い、包んでもらった。
それをレンジで温め、ホウレンソウと水菜のサラダを添えて新聞の上に置いたら、匂いにつられてゆきちゃんがぽんと目の前に飛び乗った。
スーパーに行くと、オレンジの季節になったのがわかる。まだハシリなので高価だが、みずみずしく輝くオレンジは食欲をそそるものだ。
大量購入はひとまず日曜日の市まで待つことにして、ひとつだけバスケットに入れた。
ニンニクと輪切りのズッキーニをオリーブオイルで軽く炒め、解凍した海老を加える。オレンジ半分のジュースとすりおろした皮は、少し前からサフランを沈めてあるので色がもっと鮮やかになった。これを最後に鍋肌からそろりと入れる。煮立ったら、ぱっとイタリアンパセリを加えて火をとめ、タリアテッレをざっと混ぜ合わせる。
殻ごと炒めた海老のコクがオレンジの香りに微妙な深みを与えていて、美味しい。
今度は果肉も入れてみよう。そのほうが爽やかさが増して、もてなしの前菜にも使えそうだ。
近くにできた居酒屋の「豚の角煮」が旨いらしい。昼がラーメンで夜が居酒屋では、まるで単身赴任中の日本人のような食生活だが、パースに戻れば「気軽に和食」と言うわけにはいかないのだ。
さて。注文した角煮は驚くほど大きい。食べやすいように切ってあるのかと思ったら、丸のままだ。500gはありそうなそれは、しかし箸をすっと通すほど柔らかい。味もほどよくしみて、甘すぎず辛すぎず。
熱燗を口にしながらひょいと周りを見ると、どうもここは仕事帰りの日本人が寄るところらしい。わたし以外は皆男性で、会社(工場)のユニフォーム姿も多い。そして、1時間あまりパートナーとちびちびやっていたら、8時を過ぎたころからかなり話し声がやかましくなってきた。隣からも後ろからも、仕事のウサばらしをする酔いのまじった声が飛ぶ。
タイ人従業員を別にすれば、東京の片隅の居酒屋かと錯覚してしまいそうな雰囲気だった。
タイが日本より2時間遅れているのを、すっかり忘れていた。こちらがまだ17日なのに、東京ではもう18日になっちゃっているわけで。
オーストラリアから持ってきたチーズと脂肪3%のクリームなんてものがまだあるので、グリルドチキンのチーズソース添えを作る。本当は4種類のチーズを使うのだけれど、ゴルゴンゾーラとパルミジャーノしかない。まあこのふたつのチーズは単品でも一癖も二癖もある強い個性を持っているので、コクには十分だ。
バターと小麦粉を火にかけて練り合わせ、そこにチキンコンソメを少しずつそそぎ、とろりとするまで弱火で煮る。そこにクリームとおろしたチーズを加えて、塩コショウで味をととのえるだけ。さっぱりした鶏の胸肉には、このこってりしたチーズソースがよく似合う。
しかし、脂肪3%のクリームを使っても、残りの材料がかなり高カロリーなので、ダイエットには全く向いていない。
昨日から始まったタイ正月「ソンクラン」のおかげで、行きつけのレストランのほとんどが3日間休業、屋台さえまばらだ。いつもの渋滞がなく、普段は30分かかるところへでも5分で着いてしまう。タイ人もガイジンも揃って消えてしまったバンコクでは、年中無休のショッピングセンターが賑わいを見せているだけだ。
午前中は、誰もいないマンションのプールにドザエモンのように浮かび、午後遅くなってから買い物に出てみた。
鶏肉はたとえ鳥インフルエンザに侵されていたとしても、80度以上の高熱で調理すれば大丈夫らしい。それでも、3ヶ月ぶりのスーパーでは鶏肉がほとんど売られていない。隅っこのほうに丸のままの鶏肉が4-5個ころがっているだけだ。
代わってハバをきかせているのが、豚肉だ。「清浄豚肉」と大きく書かれているが、タイのことだから、本当かどうかはお釈迦様だけがご存じだ。
それではベジタリアンになるしかない、いやいや野菜だって危ないって言うじゃないか、と心の中で葛藤してみてもしょうがない。久しくローストをしていなかったと考え直し、大きなかたまりをひとつ切ってもらった。
ローズマリとタラゴン、それににんにくを加えて、実はタイにもある思い石製の臼の中でぽくぽくと叩く。前にも書いたが、フードプロセッサーを使うよりは、こちらのほうが風味が出る。出来上がったペーストを肉に塗りたくり、ついでに切り口にロズマリーとにんにくをねじりこみ、後はオーブン任せだ。付け合せには、チェリートマトとピーマンをバルサミコソースで軽く炒める。
オフィスも閉めているし、ウルサイ秘書も掃除の嫌いなメイドもいない。なんだかシンとした家の中に、スパイスと肉の焼ける香りがふわりとただよってきた。
パースはここ何ヶ月か40度を超える日がかなりあり、エアコンのない教室で教えているセンセイにはことの他つらい夏だった。
バンコクの夏は久しく経験していなかったので、身体が忘れちゃっていたのかもしれない。温度ではパースに負けてはいるが、湿度はかなりのものだ。キッチンで夕食を作るのは、殺人的でさえある。
野菜でもローストしようとオーブンに火をいれたら、キッチンまでオーブンの中のように「熱く」なってしまった。何度もリビングルームに戻って涼み、息を整えてからまたキッチンで食事の支度を続ける。そんなことを繰り返していたら、肉をグリルするのが嫌になってしまい、代わりにパースから持ってきたサラミと生ハムを切ってパンを添えた。
ヨーロッパでもこれはどちらかと言うとアングロサクソン系の習慣らしく、スイスやフランスでは見たことがない。
アングロサクソンの「春の女神」(イースター)を崇めるために作られたのがその始まりで、この丸い形は月を、そして十字は四季を表している。しかし、初期のキリスト教会がこの習慣を引き継いで宗教的な意義が強めたため、本来の「春を祝う」という習慣は薄れていってしまったようだ。
店先に出回る食べ物によって、季節または伝統を感じるというのは日本でもよくあることだが、このバッテンのついた菓子パンで「ああ、もうすぐ休暇だい」とウキウキしてくるのは子供たちもセンセイも同じである。
昨日放課後の語学教師ミーティングの席でも、この菓子パンがふるまわれた。普段しかめっつらをしているセンセイたちの顔ももちろんほころんでしまう。
わたしもひとつもらったが、選んだのはチョコレートチップ入りのものだ。シナモンの香りが鼻をくすぐり、あんまり美味しいので「どこで買ったの?」と思わず聞いてしまった。
今日ショッピングに出たのは、普段の「買出し」もあったが、ホントの目的はもちろん焼きたての Hot Cross Bun である。朝のうちに車をブッ飛ばして買いに出た甲斐があり、パン屋のおじさんが渡してくれた紙袋からは、シナモンの香りとともに暖かいぬくもりが手にじんわりと伝わってきた。


