デラシネの呟き: 2007年1月アーカイブ

用事があって池袋のサンシャインシティまで行く。行きはタクシーだが、帰りはふと歩いてみたくなった。

オーストラリアでは、比較的てくてくと歩くほうだと思う。自然に接する機会も多いし(パースには、ギネスブックに載る世界一デカイ市内公園があるのだ)、写真を撮りながら歩くのは楽しい。しかし、東京ではあまり歩かない。いや、実家の近くの商店街に買い物には行くが、街を眺めながらぶらぶらと歩くことはない。いつも持って来ようと思いながら、ウォーキングシューズを忘れてしまう。パンプスやサンダルでは長時間は無理だとわかっているのに、潜在的にモノグサな自分が時々アタマを操作しているような気もする。
おまけに母は足腰が弱いし、近くに住む妹は歩くことなどダイキライだ。

実家までは、目を吊り上げての「競歩」速度でなければ、約四十分ほどの距離。荷物もないし、何の予定もなし。
歩き始めてみると、やはり乗り物に乗って通り過ぎるのとは違う景色が目に入ってくる。高いビルの間に、つぶれたような古い木造モルタル住宅がある。猫がベランダから外を眺めているのだから、ひとが住んでいるのは間違いない。隣の洒落たマンションからは、絵に描いたような若いカップルがこれまた洒落た乳母車を押しながら出てきた。もう少し行くと、ひとがやっとすれ違えるほどの細い路地がある。ちょいと入ってみたら、もっと狭い路地がいくつも行き止まりとなって延びている。このまま迷子になっても困るので、また大通りに出てきた。

実家から二十分ほどまで近づくと、今度は本当に見慣れた風景がほんの少し新しくなって目に飛び込んできた。この駅の近くには確か中学の同級生の薬屋があったなあ、と思って角を曲がると、そこはすでに新しい居酒屋になっている。夏になるたびに盆踊りがあった公園も、乗り物がごちゃごちゃと多くなって、とても舞台を広げられるくらいの場所がない。呑み屋が増えたということは、ここら辺にひしめいていた小売店の同級生たちは一体どこに行ってしまったんだろう、とふと気になった。

うちにたどり着くと、妹から電話がかかってきた。
「どこ行ってたのよ、すぐに帰るって言ってたのに」
「池袋から歩いてきたから」
ええっ、と叫んだきり妹は電話の向こうで絶句している。そんなオオゴトでもあるまいし、と言ったら、「あんなところから歩いて来るなんて、変わっているよねえ」と素っ気ない。

「でも楽しいんだよ、色々なものをゆっくり眺めながら歩くのって」

外国暮らしは、すでに人生の半分以上に達している。こんな何でもない近所の散歩で懐かしがったりおもしろがったりするのは、わたしがやはりホンモノの「デラシネ」になってしまったからかもしれない。

osechi.jpg明けまして、おめでとうございます。
ほとんどのひとが今日から出勤だと思うが、わたしは久しぶりの実家でこれまた久しぶりのノンビリとした空気を楽しんでいる。去年のように大雪が降るほどの寒さもなく、比較的暖かい冬の東京でほっとした。

「後楽園に行こうよ」という妹の一声で、母を除く里帰り族全員が昨日ぞろぞろとお出かけ。
最初はディズニーランドという案もあったのだが、地下鉄一本十五分で着いてしまう後楽園にわたしたち兄弟はもうここン十年も入ったことがない。なんだか勝手が違ってしまったので、うろうろと地図片手に動き回って結局は「ここに来たら、もうジェットコースターでしょ」のまたも妹の一声に、元気に手を上げたのはわたしと弟のみ。サンダードルフィンという乗り物だ。このトシにして、兄弟全員はしゃいでジェットコースターに乗るモノズキもあまりいないだろうが、乗り込んでから「しまった」と思った。

こわい…。

thunderdolphin.jpg一番最初の乗り物にこんなものを選んでしまったため、どれだけ高い位置にさらされるか想像していなかった。かたんかたん、とあがっていくと視界がどんと開けて冷たい風にさらされる。最後にこんなものに乗ったのはまだ二十代のころだったかなあ、と思ったとたん、奈落の底の恐怖へ。シートベルトを締め、さらに鉄のバーが膝元に降りているが、それでも足とお尻は時々に宙に浮いている。それだけ速い。ぎゃああああああ、たすけてええええ、やめてええ、こわいようううう、と叫んでいるうちにやっと降車場に。妹と顔を見合わせてしまった。髪の毛は風にあおられてバサバサ。涙と鼻水でひどい顔。喉は叫びすぎてガラガラ。後ろに乗っていた弟は、「いや、あなどれないなあ、こういう乗り物は」などと呟いている。

膝をがくがく言わせながら、階段を下りると忘れていた写真が出来上がっている。そう言えば乗り込む前に、係員が二度写真を撮るとか言っていた。ひとつは「余裕の」出発の顔、もうひとつは「大滑降中」の顔。またもや、妹と顔を見合わせて大笑いしてしまった。「大滑降中」の顔は、はっきり言ってヒトサマにお見せできるようなものではない。
わたしは、大口を開けて叫んでいる。妹は固く目を閉じて今にも泣き出しそうだ。「たとえやってくれって頼まれても、人前じゃあとてもできない顔だよねえ」と妹が言った。弟の顔だけはなんだかヘラヘラと笑っているが、これも困っちゃったときに薄笑いをする日本人のカナシイ習性かもしれない。

子供たち一行と一緒に、大観覧車に乗っておけばよかった。。
「喉元過ぎれば、熱さを忘れる」と言うが、いやもうこういう恐ろしいジェットコースターにだけは金輪際乗らないぞと固く心に誓った。

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