デラシネ@Bangkokの最近のブログ記事
そりゃあ、時には妙な日本語に出くわすこともある。たぶん「日本語ができる」と豪語したタイ人にまかせてしまったのであろうヘンテコな看板や、字の間違いがふんだんに盛り込まれている広告などがそうだ。だから、日本人の作っているミニコミ誌で、まさかこんなものを見るとは思わなかった。日系不動産屋の広告だ。
「土・日・祝も、喜んで営業しております。」
お問い合わせを喜んで承る、なら話はわかる。どんな無理難題だろうとも、へりくだって是非やらせていただきましょう、相手の話を喜びを持って承諾しましょう、という意味だ。店を開けているのは、その店の勝手である。何もこっちが開けてくれと頼んだわけでもないのに、「喜んで店を開けている」んじゃあ、なんだかニヤニヤといかにも嬉しそうに待っているようで気味が悪い。いや、もしかしたらこれは冗談なのかもしれない。今時の広告は、肩すかしを食わせるものだって多いんだ、うん。
今度はその文の隣のキャッチフレーズに目をやると、
「日頃のご愛好にお応えして、お客様に大還元プロモーション」とある。おお。
「ご愛好」って、アナタ。この店をペットのように好んで楽しんじゃっている客がいるのか。すごいな。商売人は「いつも目をかけてもらう(=日頃のご愛顧)」だけで十分でございます、とへりくだるべきなのに、このひとはまたもや「うちの店をすっごく楽しんでもらったからサア」とやっちゃったわけだ。
お願いだから辞書ひいてください、たまには。
ちょっと用事があって、もう二年ほど行っていなかったチャオプラヤ川近辺、というより王宮の近くを散策する機会があった。
この辺は、かなり整備されたスクムビット界隈と違い、まだ混沌とした狭い通りが縦横に走っている。トゥクトゥクもたくさん走っているし(スクムビットあたりだと、すでにメータータクシーばかりだ)、オレンジ色の法衣を着た僧たちと軽装の外人観光客と近くのタマサート大学の学生たちの混雑がすごい。女性に触れてはいけない小乗仏教の僧たちがゴマンといるものだから、一応女性であるわたしはいちいち避けなければならず、ずいぶんと気を使ってしまう。
で、いきなり目の前に現れたのが、この「入れ歯の露店」だ。
ガラスの割れた粗末なケースには、様々なサイズの歯が放りこまれていて、ちょいと不気味。ペンチやら金槌やら、ぶっそうな道具も並んでいる。
店のあんちゃんは、隣に座ったおじいさんの入れ歯の修理中だ。おじいさんは入れ歯を出しちゃったものだから、口の周りをへこませたままモグモグと動かしている。あんちゃんは、どうやらその入れ歯の合わせをしているらしい。紙やすりで入れ歯をごしごし、がりがり。ためつすがめつしてから、タオルで一応さらっと拭いておじいさんに渡す。口に入れて、もぐもぐ。首をかしげるおじいさんからまた入れ歯を受け取って、ごしごし、がりがり。それが何回も繰り返される。
あまりの光景に感心して、写真を取るのも忘れて見とれてしまった。
バンコク滞在最後の日、十年以上かかさず通っているイタリア料理の店に行く。
この店は広告を全く出さないにもかかわらず、地元のガイジンたちで大変にぎわっている。料理は美味だし、サービスもよい、照明を落とした雰囲気も落ち着ける。その上、自宅から近いと来ちゃあ、行きつけにならないわけがない。
ところが、いつもながらの悪いクセ、レストランに行くと隣の席のひとが気になる。
右隣は、どうも英語のアクセントではオーストラリア人らしい中年のカップル、食事中全く会話がない。二十年結婚していたら、やっぱりこうなるんじゃないか、という見本だ。全七品の「おまかせメニュウ」を頼んだらしく、まあ出てくるわ、出てくるわ、わたしも何度か試したことがあるが、とても全部食べきれない量だ。オクサンは、最後の肉料理で轟沈、デザートは一口で押しやってしまった。ああ、ここのホームメイド・アイスクリームは絶品なのに、ねえ。
左隣は、中年のイタリア人と地元のタイ人女性のカップル。デキャンタするようなワインを頼んだものだから、フロアマネージャーがすっとんできた。うやうやしくデキャンタしてもらったワインは、くるくるとグラスを回しながらうやうやしく飲む。ここまではいいんだけれど、その後ずうううううううっとグラスを回し続けるのだけは、やめてほしい。目が回りそうだよう、と言ったら、わたしのパートナーは「じゃあ、そんなに隣のテーブルを凝視しなければいいじゃん」と、シゴクもっともな意見を出す。
どんなワインを頼んだんだろう、とものすごく気になったが、どうしてもラベルが見えない。地団太踏んでも、見えない。ああ。
そのうちに、彼の同伴タイ女性がやっとワインに口をつけた。そして、ぶうと顔をしかめる。しかめただけでは足らなくて、隣にあった水のグラスから、水と氷との両方をワイングラスにぶちまける。ごくりと飲んで、やっと一息つけたといったふうだ。その間二十秒足らずだったと思うが、そのイタリア人とわたしは同時に凍りついた。凍りつかなかったのは、彼女とその彼女の行動が見えない位置にいたわたしのパートナーだ。
たぶんものすごーく高いワインだったろうが、ワインを飲みなれないその女性にとっては酸っぱいアルコールぐらいにしか思えなかったのかもしれない。
毎度遭遇する「ガイジンと地元タイ人エスコート女性」だが、みんな一度はシッパイするんですなあ、と一人納得する出来事だった。どうして、もっとタイ人が気楽にくつろげるような店に行かないのかなあ。そのほうが、口説きやすいだろうに。
そのイタリア人、あとのワインは全て自分で飲んじゃったようだが、さらにもう一本またもや「デキャンタするようなワイン」を頼んだ。そして、今度は「誰も」(つまり、彼もそしてデキャンタしたフロアマネージャーも)その新しいワインを同伴の女性に勧めない。
笑いをかみころしたわたしは唇がふにゃふにゃになり、あわててナプキンで口を隠した。いけない、いけない。
ちなみにわたしが飲んだのは、オーストラリアから持って帰ったTaylors Jaraman Cabernet Sauvignon 2003。ミディアムボディで飲みやすいヤツだ。ちょっとオークがきつすぎるかな、とも思ったけれど、リッチに仕上げたメイン、「鶏の骨なし腿肉のパンチェッタ、チーズ、葡萄詰め」に大変よくあっていたように思う。


