ボウフォート・ストリートのSt Michael 6003

昔Jackson’sという、いわゆるFine diningが楽しめる高級レストランがあった。残念ながら数年前に閉店してしまったが、そのあとにできたのがこのセイント・マイケルという店で、おなじようにコース料理を得意とする高級店だ。
Zomatoという日本で言うなら「食べログ」のようなサイトでも高評価を得ている。土曜日のディナーは他にも色々と候補が上がっていたが、その高評価とJackson’sの後釜ということでSt Michaelに決まった。予約を入れてみると、6時45分の予約だと2時間でテーブルを明け渡さなければならないので、そんなに混んでいるのかと7時半にした。その時間ならコース料理を急いで食べることもなく、ゆっくりと楽しめると思ったからだ。

結果は、バツ。

給仕スタッフは感じがよいのだが、まず「水はスパークリングですか、スティルですか」と訊く。ワインがあるので水は口を湿らせる程度しか飲まない。そこにミネラルウォーターだけではなく水道の水の選択もあることを知らせるのが普通だが、そういう言葉はなかった。つまりこちらから「水道の水でいい」と言わなければ、持ってきてもらえない。

メニューには季節の素材を使った「夏のメニュー」と題したコースがあり、それと白ワインを1本注文した。

最初はトマトのガスパーチョ(酸っぱい冷製スープ)だ。自家製フォカッチャのパンがついていたが、これがまたずいぶんと脂っこい。ねっとりとしたバルサミコソースがつけられている。酸っぱいバルサミコをつけたパンと酸っぱいガスパーチョか。ガスパーチョは美味しかったけれど、小さなエスプレッソカップに入っていてカトラリーが何もついていないのですすらなければならない。パンで拭きたくてもカップはそれができないほど小さい。

ここらあたりでもうわたしはイヤな予感がしていたのだが、気を取り直してコース二番目の料理。カポナータ(イタリア風ナスの甘酢煮)の上に大ぶりのホタテが載っている。カポナータがまたもや酸っぱい。いやカポナータが酸っぱいのは当たり前なのだが、それでも二皿目もまたかと思わざるをえない。ホタテの焼き具合は完璧だったが、味が全くしない。つまり塩を振っていないか、忘れたのか。カポナータと一緒に食べろということなのだろうが、それにしても味気ない。真ん中にはターニップとフェンネルのクリームにオリーブオイルがたらしてあるが、彩りはいいのにこれもまた塩気なし。

三皿目は、カリフラワーのリゾットにケイパーが添えてある。これが洗面器のような皿の真ん中にほんの少しだけ鎮座している。あれ?と思ったのはこの巨大な皿を見たのはこれで2回めだからだ。Red Cabbageという店だった。

サウス・パースのRed Cabagge Food & Wine

モダーン・オーストラリア料理ではこうした巨大な皿を使うことが多いが、かちあってしまったんだね。このリゾットがまた胸につかえそうなほどリッチで、ほんの少しにも関わらず半分ほど残してしまった。

そして、ここまでで30分。なんでこんなに急がされなければならないのか。次々と運ばれてくる皿に、わたしたちはワインを楽しむ余裕もない。さすがにひとりが腹に据えかねて「僕たちが席についたのは7時半だ。そして今は8時。この店はマクドナルドと同じぐらいの速さで客の食事を終わらせるのか」と苦情を言った。急ぐ理由はない。テーブル席は半分以上が空席なのだ。わたしは時間を測っていたが、さすがにメインの皿がでてきたのは15分後。

わたしは旬の魚料理を選んだ。バラマンディーという鯛の一種の切り身にイカのグリルが添えられている。魚はとても新鮮で美味しかったが…添えられていたレンズ豆のサラダと自家製マヨネーズがまた舌を刺すほど酸っぱい。この店は全コース酸っぱい料理なのか、とフォークでレンズ豆を寄せて残した。

さてここでまだ全員ワインが残っている。片づけに来たスタッフにまた「まだ皆ワインが残っているから、デザートはこれが飲み終わってからに」と頼んだ。
そして、ものの5分もたたないうちにデザートが運ばれてきた。誰もまだワインを飲み終わっていない。スタッフ同士のコミュニケーションがうまく行っていない証拠だ。仕方なく皆デザート皿を脇に寄せて、まずはワインを楽しんだ。

デザートはパッションフルーツのパルフェとラズベリーのシャーベット。可もなく不可もなし。ただし、ラズベリーのシャーベットがまたもや酸っぱかったことを付け加えておく。
そして、デザートのあと普通なら珈琲と食後酒でも頼むところだが、そんな気力は残っていなかった。

勘定書を確かめたら、今度は赤ワインが3杯となっている。赤のグラスワインを頼んだのは2人のみ。誰も追加注文はしていないし、わたしは白ワインしか飲んでいない。スタッフが「こちらがディスカウント後の請求書です」と金額を訂正したものを持ってきたが、謝罪は一切なかった。ディスカウントとはなにごとだ。「訂正」だろうが。

わたしは美味しいものは安くて汚い店でも平気で食べるし、むしろ幅広く料理類は試しているつもりだ。ただし、高級店というからにはサービス、料理、雰囲気が一致していなくては大枚をはたく気が起きない。どれかが欠けても「高級」に値しないと思っているからだ。だから、その三つを備えた店では「損した」と思うこともチップをケチることもない。

そんなわけで普段はあまり書かない辛口の感想を書く気になったのは、ほかでもない、その三つが全く見つからない店がなぜチマタでは評判がいいのか理解できなかったからだ。残念。

再び、Kiri Japanese Restaurantへ

イギリスから友達夫婦が来ていて、「美味しい日本料理を食べてみたい」というので、彼らが帰る前にシェントンパークのKiri Japanese Restaurantに「おまかせ懐石コース」の予約を入れてもらった。このレストランにはわたしの誕生日ディナーで友達何人かと一緒に訪れたことがある。

シェントンパークの Kiri Japanese Restaurant

今回はもちろん「夏の懐石料理」とのことで、メニューは全く違うと言われていたので楽しみにしていた。

まず出てきたのが、食前酒としてのユズ酒。懐かしいユズの香りが心地よい甘いお酒だ。

続いて出てきたのは先付け。揚げたスナッパー(鯛の一種)、玉ねぎ、チャイブの甘酢仕立て。パプリカのグリル、シラス、鰹節としょうがに旨味だし。甘辛牛肉のアスパラ巻き。繊細な味付けで、白ワインがすすむ三品だった。

次のお椀はおすましで、柔らかい鴨、コールラビ、焼きネギ、そして茶そば。ユズの香り高いペーストが上に添えられている。ほっとする味。

お向の刺身は、シェフの選んだ新鮮な七種盛りだ。

別盛りで、アワビと帆立貝も添えられた。アワビなんて本当に何年ぶりだろう。美味しい。

お次は焼き物。ナナガイの焼き魚にウナギ。写真がぶれてしまっていて恐縮だが、炭の香りがほんのりとただようしっかりとした魚肉に、ここずっと食べたことがなかったウナギが美味しくて、思わず声が漏れた。

おしのぎは変わっている。自分で皿の上で混ぜるポテトサラダだ。マッシュされたポテト、赤玉ねぎ、セロリ、アボカド、枝豆。そして小さな木製スプーンにはユズの汁、自家製マヨネーズも添えられ、ピスターシオが散らしてあった。こういうミックスもあるのだなあという新しい発見。色々と混ぜてみると、複雑な味わいで楽しい。

メインは本当なら四つの中からひとつを選ぶはずなのだが、今回は小さめにして三品出してもらった。
まずは、イクラを載せた焼き鮭のユズぽん酢。

ヒラマサの煮魚。

そして、大海老を使ったエビ天丼。各種漬物も添えられていた。

ここまでで、わたしたち四人は持ち込みの白ワインを三本空け、さらに追加の白ワインを一本注文していた。酒豪揃いである。

水物は各種フルーツ。ミカンのゼリー、そしてラムレーズンのクッキーサンドだった。さっぱりとしていて、懐石の最後にふさわしいデザートだった。

パースでは正統派の懐石料理を出す日本料理店は少ない。オーストラリア人の好みに合わせ、大皿で現代風のフュージョン料理を出す店が最近では多くなってきた。それも嫌いではないが、やはり時々こうした繊細な味と色と器の共演を楽しみたい。
そして、Kiriではまたも期待を裏切らない料理でもてなされ、わたしたちは満足の笑みと心地よい酔いに身を任せて帰宅したのだった。

エカマイの Cuisine de Garden

「エカマイに変わったレストランができたよ」とスイス人の友達が言った。何しろ料理はコースがひとつだけ、フロアには本物の木が何本か植えてある。ものすごく芸術的な料理だよ、一度は「見た」ほうがいいよ、と。芸術的な料理というのが気になって、3日早い誕生日のディナーとなった。

 

メニューを見ると、なるほどフルコース料理がひとつしかない。ただし、そのコースはチャプターが4つあり、チャプターごとに3つの料理の中からひとつ選べるようになっている。全て選んでさてワインは…と思ったら、10月5日はオーク・パンサーだった。仏教の「出安居(しゅつあんご)」で酒類禁止の日である。ワインが飲めない。他のテーブルも皆ミネラルウォーターだけしか置いていない。がっかりしたが、まあ酒なしでも料理は楽しめるから、と気を取り直した。

最初はまず自家製の温かいパン。ヨーグルトのように多少酸っぱいクリームが添えられている。皿は本物の木の葉だ。

次に出てきたのはアミューズ・ブッシュと呼ばれるレストランで最初に供されるひとくち大のオードブルだ。タイ料理でよく使われるこぶみかんの味を基調として、左の海老、二番目はムール貝と海藻に泡立てただし汁がかかっていて、黒い貝殻ふうのビスケットも食べられる。三番目はこぶみかんの葉の上に鮭のタルタル、そして最後はライム・ジュースをからめた蟹肉がこぶみかんの実の上に載っている。「左から段々にこぶみかんの味が強くなっていますので左から召し上がってください」とのこと。

さて、ここまでが前菜で、次は3つの中から注文したチャプター1が始まる。わたしの1の皿はSeacret(海の幸とシークレットをかけているタイトル)で、北海道産のホタテ、隼人瓜(はやとうり)、赤い海藻の上に泡立てたゆずジュース。そこに出し汁がかけてある。

もうひとつはRain Forest(レインフォレスト)で、牛肉のタルタル、ビーフ味のチュイール、卵の黄身のソース。

チャプター2はNest(巣)だ。さて何が出てくるのかと思ったら、これ。

温泉卵がカリカリに揚げたビーフンの巣に載っていて、その下にはキノコと鶏肉のミックス。カリカリに揚げたゴボウも添えてあった。どうやって食べるのかわからず、とりあえずウェイターに割ってもらうと…

なんと美しい。
これを崩して下のビーフンと鶏肉とキノコとともに口に運ぶ。ちなみに、殻は一緒についてきたカゴの中へ。

こちらも巣の中ということか。上手い。

もうひとつのチャプター2はEclipse(日食)で、 ドライアンチョビ入りの大麦のリゾットと菊芋(キクイモ)スライス。

次のチャプター3がメインだ。わたしのはWater Lilies(睡蓮)で、オヒョウのグリルに蓮の茎、花、実全てが調理され、セリの一種であるペニーワートのジュースで緑色のソースが作られている。こちらはモネのスイレンの色をイメージしているとのことだ。なるほど。配色が美しい。

もうひとつの皿はVermilion(朱色)で、こちらは鴨肉のコンフィ、ビーツとビーツを使ったソースが添えられている。

最後のチャプター4はデザートだ。わたしが注文したのはBloom(花盛り)で、グァバのシャーベットに小さなブリオッシュとマウンテンハーブが添えられている。

あとの皿はFarm(農場)。ヤギ乳のパンナコッタにマカデミアナッツと蜂蜜巣が添えられている。

最後はStone(石)。その名の通り黒い小石が詰められた箱が出てきた。4つだけチョコレート・トリュフが入っていて、確かめてから食べてくださいねと念を押される。ただし見つけるのは簡単だ。チョコレートだけは汗をかいていたので。

自然をコンセプトとして、タイと世界中の珍しい食材を使い、あくまでも美しく芸術的で、発想豊かなコースだった。確かに不思議な料理である。
見ただけでは何だかわからないので、その都度英語が達者なウェイターが説明してくれる。これがまた面白い。聞き返せばその食材がどこで採れるか、またオリジナルがどんな形をしているのかも教えてもらえて、とても楽しかった。

コースは季節ごとに全て入れ替わるので、わたしたちが食べたのは「秋のコース」だったらしい。次の新しいメニューは11月末に始まるとのことだった。

素材の味を生かしていて、目にも舌にも優しい料理だ。確かに毎日食べたいという普段の食事とはかけ離れていて、素材の珍しさと使い方に目と舌を驚かせ、楽しませてくれる料理と雰囲気だった。一度はお試しを。