西オーストラリア南西部の小旅行:マウント・バーカーのPlantagenet

諸事情あって、今回の学期休みはバンコク行きをキャンセルした。
となると、やはりまとまった自由時間があるならば小さな旅がしたい。5日ぐらいなら何とかなるので、オーストラリア南西部、つまり西オーストラリア州南下の旅に出発することにした。

アルバニーへは、わたしの家の近くを通るAlbany Highwayを車で一気に南下すれば4時間40分ほどの旅だ。何度も行ったことがあるが、パースよりも涼しくこじんまりとした美しい港町で、周りにはワイナリーも沢山ある。

10分も走るともうこんな感じなので、パースが田舎道に囲まれていることがわかる。

アルバニー「ハイウェイ」とは言うものの、高速道路ではないので、こんなふうなのどかな道が4時間以上続く。ただしほとんどの道が制限時速110キロで、何十キロも何もない。店もガソリンスタンドも看板もない。だから、パースでガソリンを満タンにするのは鉄則だ。時々電話さえ通じない地域も通るので、そういう場所で車がエンコしたら大変なことになる。昼間ならまだ車も通るが、これが夜となったら真っ暗闇である。道を照らす街灯すら全くない。

180度に広がる青空と平坦な広野を見ながら走り続け、トイレタイムも入れて4時間半。ちょっと休もうということになり、マウントバーカー(Mount Barker)に立ち寄った。
ここは西オーストラリア最大の「放し飼いの鶏(Free Range Chicken)」を供給するエリアだ。オーストラリアでは放し飼いの鶏が産んだ卵(Free Range Eggs)のほうが、狭い棚に詰め込まれて突き合わないようにクチバシを切られた鶏の卵より多くなってきた。わたしも実は卵と鶏肉はこのFree Rangeしか買わない。
ちなみに、日本で売られているのはそのほとんどが「棚生活の鶏」の卵だ。そして安い。「味」にこだわる高級卵もあるが、棚生活の鶏たちの実情はあまり知られていないようだ。放し飼いの鶏とのあまりの生活の違いにびっくりすると思うのだが。

さて、このマウントバーカーにはわたしの大好きなプランタジェネット(Plantagenet Wines)というワイナリーがある。この西オーストラリア西南部のワイン開発においてはパイオニアと呼ばれ、中規模ではあるが高品質でエレガントなワインを供給しているので有名だ。

1974年のヴィンテージで評判をとったのがこのカベルネソーヴィニヨンのボトル。1968年に種から植えたブドウから作られた、初めてのプランタジェネット・ワインだ。

昔は小さな宿泊施設を持っていたこともあるが、今はワイン試飲とその横に小さなカフェがあるだけだ。カフェと言っても、もちろん買ったワインを飲むことができる。このカフェのTasting Platter(ワインのつまみ)が素晴らしかった。

放し飼い鶏のスモークハム、低温スモークの鮭、チョリソー・ソーセージ、地元のチーズ2種、ピクルス、ジャム、地元オリーブのタペナード、プラム、りんご、ブドウ、そしてクラッカーとパン。合わせたのは2016年House of Plantagenet ‘York’ chardonnay。シトラスと甘いピーチの香りでまろやかなシャルドネだった。

そのシャルドネを半ダース(5−7年寝かせられるワイン)、2013年シラーズを3本(数年寝かせるべきワイン)、2009年カベルネ・ソーヴィニヨンを3本。最後の3本は「今から2年後まで」が飲みごろなので、まろやかで上品な味と香りだが現在ではレストランにしか卸していないそう。つまり「早く飲め、今が飲みどき!」ということらしい。全部で1ダース買ったので、無料でパースまで送ってもらえる。

マウントバーカーから今日の宿泊地であるアルバニーまでは約50キロ。アルバニーに着いた夕方には、すでに曇り空になって気温も一気に下がって16度ほどだ。日本と反対の南半球では「南下」すれば気温が下がるのだ。なにしろ南極に近くなっているのだから。

そのままホテルに直行して仮眠をとり、シャワーを浴びて軽い夜食をちょいと雰囲気のいいバーで…と思ったのが間違い。

古いホテルをそのまま使った内装は古めかしくて素敵だったが、料理がひどい。どう考えても「アジア料理」を食べたことのないシェフなのか、味付けが何もかも酸っぱいのだ。季節の野菜のオイスターソース炒めもイカの揚げ物も全てレモンをたっぷりとたらしてあり、なんだこりゃというシロモノだった。それに、醤油とレモンだけで味付けされた蟹肉(ほんの少し)入りアジア風ヌードルがなんと3000円近くする。ネットで調べた情報をたよるとこういうこともある。
残念。

(旅から戻ってからブログ記事にしたので実際に書いたのは4月19日だが、日付は旅の日付に調整してある)

懐かしい母のカレーライス

妹が母の介護のため正社員の職を辞した。
フルタイムの夕方からの仕事をしながら、昼間は母の病院へ付き添い、毎晩夕食をつくってから出社し、週末は母を風呂に入れ、ケアマネージャーと話し合い、様々な手続きと書類を提出し、睡眠時間は毎日5時間を切っていた。わたしはずっと彼女の身体のほうが心配だった。

そんな妹がよくつくっていたのがカレーライスだ。これなら、温めるだけで母も食べることができる。

先日も「カレーライスをつくったよ」と電話(Facetime)で話し、そう言えば和風のカレーなんてここ何年も食べていなかったな、と気づいた。本格的なインド料理店には足を運ぶが、和風カレーはちょっと違うのだ。

母も昔はよくカレーをつくった。乱切りの玉ねぎ、ジャガイモ、ニンジンに、角切りの豚肉。バーモントカレーの板チョコのようなブロックを、少しずつ折りながら最後に加える。わたしが東京に住んでいた10代のころは、まだそうしたインスタントカレーのCMもテレビではさかんに見られた。いつごろから、そうしたCMが全く出なくなってしまったのだろう。

さっそくアジア食品店でバーモントカレーを見つけ、中辛を買い求めた。

ひとくち口に含むと、懐かしい味が広がる。中辛だというのに、激辛タイ料理やインド料理に慣れた今のわたしの口には、甘くて優しい。
ご飯はカレーに使うバスマティ米ではなく、いつも食べている自作五穀のカリフォルニア米。日本のカレーにはこちらのほうが似合う。

母がよくつくってくれたもので覚えているのは、このカレーライスと豆腐入りの豚肉生姜焼き、そしてハンバーグ。とっておきのご馳走はちらし寿司かあんまり甘くない稲荷ずし。子供のときの母の料理は今でもよく覚えていて、そうだ、あのころは母とわたしたち姉弟4人で食卓を囲むことが多かったっけ。亡き父はあのころ毎晩遅くまで仕事か、または飲んで帰ってきていた。

母はもう今では指があまりよく動かなくなってしまい、料理は電子レンジで何か温めるぐらいしかできない。昨日食べたものも忘れることが多くなった。でも昔のことはハッキリと覚えているので、次の1時帰国では「お母さん、今日はお稲荷さんにしようよ。分量を教えてくれれば、わたしがお母さんの味でつくるから」と言ってみよう。

もうひとくちカレーを口に運んだら、昔の食卓とわたしたちに背を向けてカレーをつくっている母の姿がはっきりと目の前に浮かんだ。懐かしさで手が止まってしまった。

母はあと5日で88歳になる。

エアルームトマトのサラダにチキンとマッシュルームのオーブン焼き

日曜日は恒例となった近くのファーマーズ・マーケットへ。ここは以前はしなびた露店が10軒もあればいいほうだったマーケットだが、市が「これじゃいけねぇ」と思ったらしく、今年から規模を大きくして新鮮な野菜や果物などの店を増やしたら大当たり。毎週野菜を買いに行くのが楽しみになったひとも多い。もちろんわたしもそのひとり。

今回は「来週からはトマトもやるからね」という店に直行したら、おお、あった。この無骨で醜くて形もマチマチで、スーパーじゃとてもじゃないが売れないような形のトマトが。

これはエアルーム・トマト(Heirloom Tomato)と言って、交配を繰り返した改良品種ではなく固定種と呼ばれる。つまり何世代も同じ育成過程を経て作り続けられる品種だ。たくさん作れるわけでもなく、赤くなってから収穫するのでスーパーに大量に卸せるわけでもない。だから、こうしたマーケットで細々と売るほうが多い。

昔ながらの青臭いトマトの香りと肉厚の甘い果肉が楽しめるので、こればかりはスライスしてバージンオリーブオイルとバルサミコ酢を振りかけ、最後にパルミジャーノ・レッジャーノのチーズとバジルを載せるだけだ。

これだけはどんなに食べても食べ足りない。スーパーのトマトなんか実際食べられたものではないのだ。

さて、そのトマトをつまみながらもうひとつのメインの料理を作る。まずフライパンにオリーブオイルを熱し、皮を剥いたエシャロットを半分に切り、マッシュルームも大きいものは半分にして中火で炒める。どちらもしんなりしたら、ニンニクのスライスを加え、タラゴンを茎ごと放り込み、チキンコンソメスープのキューブと水を入れ、ついでにシェリー酒をたらす。一気に沸騰したら火を止めてオーブンロースト用の深皿に。

次に同じフライパンに油を足してから、骨付き鶏もも肉に塩コショウし、両面焼き色ををつけて同じ深皿に加える。そのまま、アルミホイルでぴっちり蓋をしてから180度に熱したオーブンで30分。アルミホイルをはずして15分。フレッシュなタラゴンを散らしてできあがりだ。

おっと、その間にこれまたマーケットで買ったジャガイモを同じオーブンで30分ほどローストした。

熱いうちにハフハフと頬張り、甘いトマトで口中をさっぱりさせ、また今度は熱いジャガイモでハフハフと…ああ、美味しい。