うん、いい香り

前回のバンコク「里帰り」で、オイルバーナーとアロマオイルを買ってきた。
今までは、部屋の香りといったらお線香タイプが一番だと思っていたが、オイルを燃やすのも雰囲気が変わるので気にいっている。香りはどちらかというと、アジア系がやはり落ち着くようでレモングラスにしてみた。
部屋のあかりを落として、バーナーの四角い窓の間から小さな炎を見る。隣に座って鼻をうごめかせていた猫の目にも、炎がちろちろと動いている。
(写真:バーナーの前にころがっているのは、ミニチュア細工のタイ菓子)

熱心な読書家

わたしの住んでいるアパートは、昔モルツ(ビールの「素」ですね)工場だったところで、1900年代初頭の建物を改造して敷地ごとアパートメントハウスに 改造したうちのひとつだ。長いウナギの寝床のようなレンガ造りの建物が、入り組んで敷地を這っている。街のドマンナカということもあって、中はかなりトレ ンディな作りだ。プールには温水のジャグジがあり、ジムもサウナもそろっている。

去年は全く使わなかったそのジムに、今年にはいってから週に2回は行くようにしている。わたしの使う遅い午前中はほとんど人気がないからだ。
今日も誰もいないだろうと、勢いよくドアを開けたら、いた。30代の男性が本をハンドルに乗せて読みながら、ゆっくりゆっくりフィットネスバイクを漕いでいる。
わたしのスレッドミルとマシンのエクササイズは30分でソソクサと終わったが、彼はまだゆっくりゆっくりと漕いでいる。あのスピードでは、歩いたほうが速いのではと思うくらいの「ゆっくり」だ。
午後にショッピングセンターで買い物を済ませ、帰りにまたジムを通りかかると、今度は大きな泡を噴出しているプールのジャグジに座って、彼はまだ本を読んでいた。
自転車もプールのぶくぶく風呂も、本を読むには絶好の環境ではない。ましてや、わたしが最初に彼を見たときから、ゆうに4時間はたっている。
マコトに不思議なひともいるもんだ、と妙に感心してしまった。

ノンちゃん、雲に乗る

パースの図書館は、大きなガラスの入り口をはいると、すぐ横に古本コーナーがある。
本棚もあるにはあるが、そこかしこに山積みになった古本は、皆図書館からの処分品なのである。全てコインで買える値段の本だが、普段はあまり興味深い本は見つからない。

と ころが今日は、延々と続く英語の背表紙の中に、ひょこっと日本語が浮かんで消えた。あらと思ってもう一度引き返すと、そこにあったのはみず色の表紙の「ノ ンちゃん、雲に乗る」。石井桃子の古典的児童書だ。表紙の扉を開いてみると、そこにはまだ図書カードや、貸し出しカードがついたままである。85年購入 で、実に様々なスタンプとひとのサインが並んでいる。高校や大学の図書館に直接貸し出された形跡もある。15年以上たったにしてはまだまだきれいなその本 を、日本語学習のために一生懸命読んだ学生もいたのだろうか。
わずかな金額と引き換えに、わたしのものになったその小さなみず色の本は、小学校の ときに読んだきりだ。だから、細部は覚えていない。ぱらぱらとめくると、小学校の図書館の匂いがした。そして今はあまり見かけない活字も、ぼろぼろになる まで読んだ同じ時代の児童書と同じもので、クリーム色のすべらかな紙の上で、優しく丸みをおびて光っていた。
懐かしくて懐かしくて、そうっと触れてみる。