ビーツからマクベス夫人へー想像の飛躍

ビーツ(beetroot)と呼ばれるこのカブ科の野菜は季節モノなので、生でお目にかかれるのは秋と冬だけである。スイスにいたときはよく肉のつけ合わ せとして煮たものだが、こちらではもっと簡単に、アルミホイルでくるんでバーベキューしている肉の隣にほうりこんでやるだけである。ほくほくとローストさ れたそれの皮をむいてぶつ切りにすると、真っ赤な汁が皿ににじみでる。ひとくちかじると、歯ごたえのある感触とほんの少しの甘みが口に広がって、後をひ く。日本ではあまりお目にかかれない野菜だが、ロシアのボルシチというごった煮はこのビーツを使うので、マッカッカのスープとなるのだ。

手 でいくつかのビーツを剥くと、指から爪の間まで赤く染まってしまう。丁寧に石鹸をつけてその赤い汁を洗い流していたら、あろうことかシェークスピアのマク ベスの奥方を思い出してしまった。人殺しの罪の重さに耐えかねて、洗っても洗ってもぬぐい切れない血の幻覚と狂気の中でさまよう女性。「あなた、あな た。。。血がどうしても落ちないのです。。。」手をごしごしごし。
初めて日本語訳を読んだ高校生のときに、彼女の夫をけしかけるセリフからこの身の毛のよだつ情景まで、逐一目の裏に浮かぶような思いを味わった。以来、観る機会があっても、これだけはまだ実際の舞台鑑賞を経験する勇気がない。

しかし夜中にこんなことを書いてしまったら、怖くて眠れなくなっちゃうじゃないか。

切り身じゃない魚も食べよう

日本のスーパーのように小魚以外は皆切り身で売っているわけではない。パースでは、大きな魚も丸ごと細かく真っ白な氷の上に並べられている。そして、買っ たときに頼めば、その場で内臓を抜き鱗を取って調理しやすくしてくれる。日本にいると、元の魚が本当はどのくらいの大きさでどんな顔をしているのかちっと もわからないが、ここでは魚屋に行けば切り身コーナーと丸ごと魚のコーナーがあるので一目瞭然だ。

そう言えば、いつも欲しい欲しいと思い ながら、つい今まで買ったことがないのが、中国料理によく使う巨大な蒸篭である。中華なべの上で大きな魚も丸ごと蒸せる。これがないために、わたしの魚料 理はもっぱらオーブンを使って、アルミホイルにくるんだ魚を蒸すことになる。今日の魚はどんな味付けにも合う白身のスナッパーなので、レモン、根つき香 菜、タマネギをお腹につめてから周りにも散らし、酒とレモン汁を豪勢にふりかけてオーブンで30分。これにしょうゆとごま油をかけたら、もうご飯の進むこ と進むこと。切り身魚は便利で食べやすいのだが、蒸魚にはやはり丸のままがウマイ。

机の下の居心地は

昨日の飽食がたたって今日は朝から胸やけがひどく、冷凍しておいた野菜スープで軽い食事となった。もちろん休肝日でもある。だが、だからと言って日曜日の マーケットを見逃すわたしではない。Red Snapperと呼ばれる鯛の一種を丸ごと一匹買ってきたので明日の晩のおかずに。

最近 もっぱらデスクワークが主になってしまったので、ゆきちゃんも仕方なく書斎にいることが多いが、どうも色々な場所の居心地を試しているらしい。巨大な豪州 人サイズのデスクに向かっているとやはり足置きが必要なので、先週オットマンを買ったのだが、さきほど足を乗せようとしたらデニムの触感がいきなり滑らか な毛皮になっていた。ひょいと下を覗いたら、同時に金色の目がふたつこちらを見上げている。自分の重さでナナメになってしまった小さなオットマンに、かろ うじて丸くなっている。書斎にはもっと大きくて快適なソファも置いてあるのに何でまた、という人間サマのため息は聞こえるはずもない。