ノンちゃん、雲に乗る

パースの図書館は、大きなガラスの入り口をはいると、すぐ横に古本コーナーがある。
本棚もあるにはあるが、そこかしこに山積みになった古本は、皆図書館からの処分品なのである。全てコインで買える値段の本だが、普段はあまり興味深い本は見つからない。

と ころが今日は、延々と続く英語の背表紙の中に、ひょこっと日本語が浮かんで消えた。あらと思ってもう一度引き返すと、そこにあったのはみず色の表紙の「ノ ンちゃん、雲に乗る」。石井桃子の古典的児童書だ。表紙の扉を開いてみると、そこにはまだ図書カードや、貸し出しカードがついたままである。85年購入 で、実に様々なスタンプとひとのサインが並んでいる。高校や大学の図書館に直接貸し出された形跡もある。15年以上たったにしてはまだまだきれいなその本 を、日本語学習のために一生懸命読んだ学生もいたのだろうか。
わずかな金額と引き換えに、わたしのものになったその小さなみず色の本は、小学校の ときに読んだきりだ。だから、細部は覚えていない。ぱらぱらとめくると、小学校の図書館の匂いがした。そして今はあまり見かけない活字も、ぼろぼろになる まで読んだ同じ時代の児童書と同じもので、クリーム色のすべらかな紙の上で、優しく丸みをおびて光っていた。
懐かしくて懐かしくて、そうっと触れてみる。

ちいさな親切、大きなお世話?

時々雨交じりの風が吹いて、いや寒いのなんの。それでも気を取り直して出かけてはみたものの、普段はすいている美術館にわざわざ日曜日にはいりたくはない。

まあ、ちょっとだけ買い物をして帰るか、と駅の構内を抜けてショッピングアーケイドに向かったら、3人ほどの日本人の若いグループがお決まりのようにバックパックをしょって、電車のチケット販売機の前で話し込んでいる。何やら困っているらしい。
近づいて「どうしたの?」と聞くと、やはり買い方がわからないということ。どこまで行くのか聞いてから、これこれこうやって買うのよ、と教えてあげたら、もちろんぽんとチケットが現れ、つり銭も出てきた。
「やっだー、だから言ったじゃない。やっぱりこうすればよかったのよぅ。」「お前だって、こうこうしたからお金もどってきちゃったじゃんかよぅ。」
で、これまたお決まりのようにわたしの存在を完全に忘れている。「それじゃ、もう大丈夫ね」と言うと、「あ、どうもー」とひとりだけがわたしに向かってささっと答え、3人の大声でのおしゃべりに戻ってしまった。

だから、嫌なのだ。

わたしはオセッカイなので、どうも外国で困っている日本人を見かけると声をかけてしまう。そして、3人のうち2人までが、きちんとお礼の言葉を言わない。
「どうもありがとう」という言葉は、一体どこへ行ってしまったのか。「どうもー」はThank youではないし、言わないよりまし、という程度の価値しかない。「どうもすいません」のほうが、まだ可愛げがある。
毎度同じような不愉快な経験を今まで住んだ国々でしてきたから、今度こそ絶対助けてあげないからねっ、と固くココロに誓うのだが、またしてもやってしまった。
オセッカイは遺伝である。煙草は絶てたけれど、これは直らないのかもしれない。

気 を取り直して、ささっと作った夕食はこれ、Caperattiというまあラビオリを大きくしたようなパスタ。ドライトマトとチキンが詰まっているから、皮 を赤くしてあるらしい。昨日イタリア食品店で買った生パスタなので、さっとゆでてから、熱くしたオリーブオイル、にんにく、タラゴンと混ぜ、イタリアンパ セリを散らして出来上がり。サラダを添えて、ついでにワインを一杯くいっと飲む。いいね。

当たっちゃった

しつこく「宝くじ」のことに触れるのには、わけがある。
当たってしまっ たのだ。例のごとく4枚のロトシート(ということは4週間確認していない)を新聞を買ったついでに、売店でチェックしてもらったところ。。。。。「わわわ わわっ、当たっていますっ。当たっていますっ。おめでとうっっっ。いやー、おめでとうっっ」などと売店のおじさんに叫ばれ、いきなり心臓はどきどき、すわ ウン億円かっ、と思ったら、なんと約7000円だった。おじさんが当たった金額を言ったとたん、周りにいた今夜のロトを買いにきたひとびとは、「なんとな く」胸をなでおろしたような風情。そりゃあ、そんな簡単に1m鼻先で大金を当てて欲しくはないわな。
当たったことがなかったので知らなかったが、少ない賞金は売店で即払い戻しになる。新聞に雑誌を数冊、そして今夜のロトも買ったのに、レジからその分差し引いた金額を「もらえる」というのは、さすがにうれしくて笑みがこぼれる。
友人との遅い午後の珈琲のときに、そのことを言ったら「じゃあ、この珈琲はがびちゃんのおごりねっ。では、ケーキも食べちゃいましょう。」
言わなきゃよかった。
「そ う言えば、あなたそういうチマチマしたものは、よく当たるよねえ。去年教えていた学校の昼休みクジ引きでは、2回も当てたじゃない。チョコレートとシャン プーだったっけ?でもねえ、そうやって、あなた大きな運を逃しているのよねえ。10回チマチマ当たるより1回どかん、てのはなかったでしょ。」
言わなきゃよかった。

こ のところ、全く「教える」仕事のオファーがないというのも「運」と言ってしまえばそれまでだが、その分こうしてHPや日記を更新したり、プログラミングと 論文の準備がゆっくりできると思えば、気分は楽になる。チマチマした運に強いわたしは、こうしてほんの少し高いワイン(もちろん、これも当たりロトのせ い)で、ふんわりといい気持ちになる。