もちつもたれつ

電話がかかってきた。去年の同僚教師だ。
「あなたがいなくて寂しいわよぅ」と言いながらも、結局は細かな日本語動詞に関する質問である。このたぐ いの電話は、週に最低一回はある。彼女たちの声を聞くのは、こういうときだけである。「もちつもたれつ」という言葉があるが、それが通用しないのが「こ こ」なのかもしれない、と思ったりもする。
わたしも利用してやろう、と勇ましく決心してはみるのだが、さてどういうときにわたしは「彼女ら」を必要とするんだろう、とハタと考え込んでしまった。

ルビィ色は、わたしの好きな色のひとつである。お酒の飲めない訪問者に、ちょっと変わったものをと買っておいたのが、Sanbitterという、カンパリとほとんど同じ味でアルコールなし、というシロモノ。吹き抜けの窓に置いたら、うれしくなるような明るい色だ。

うん、いい香り

前回のバンコク「里帰り」で、オイルバーナーとアロマオイルを買ってきた。
今までは、部屋の香りといったらお線香タイプが一番だと思っていたが、オイルを燃やすのも雰囲気が変わるので気にいっている。香りはどちらかというと、アジア系がやはり落ち着くようでレモングラスにしてみた。
部屋のあかりを落として、バーナーの四角い窓の間から小さな炎を見る。隣に座って鼻をうごめかせていた猫の目にも、炎がちろちろと動いている。
(写真:バーナーの前にころがっているのは、ミニチュア細工のタイ菓子)

熱心な読書家

わたしの住んでいるアパートは、昔モルツ(ビールの「素」ですね)工場だったところで、1900年代初頭の建物を改造して敷地ごとアパートメントハウスに 改造したうちのひとつだ。長いウナギの寝床のようなレンガ造りの建物が、入り組んで敷地を這っている。街のドマンナカということもあって、中はかなりトレ ンディな作りだ。プールには温水のジャグジがあり、ジムもサウナもそろっている。

去年は全く使わなかったそのジムに、今年にはいってから週に2回は行くようにしている。わたしの使う遅い午前中はほとんど人気がないからだ。
今日も誰もいないだろうと、勢いよくドアを開けたら、いた。30代の男性が本をハンドルに乗せて読みながら、ゆっくりゆっくりフィットネスバイクを漕いでいる。
わたしのスレッドミルとマシンのエクササイズは30分でソソクサと終わったが、彼はまだゆっくりゆっくりと漕いでいる。あのスピードでは、歩いたほうが速いのではと思うくらいの「ゆっくり」だ。
午後にショッピングセンターで買い物を済ませ、帰りにまたジムを通りかかると、今度は大きな泡を噴出しているプールのジャグジに座って、彼はまだ本を読んでいた。
自転車もプールのぶくぶく風呂も、本を読むには絶好の環境ではない。ましてや、わたしが最初に彼を見たときから、ゆうに4時間はたっている。
マコトに不思議なひともいるもんだ、と妙に感心してしまった。