たくましい蟻たち@キッチン

わたしのアパートは、修復した大きな19世紀末のモルト工場だ。
工場の昔のままの棟をそのままアパートに改装しているから、天井が高いし建物自体も大きい。しかし、何度も書いたように隣人がうるさいのと、入り口にたどりつくまでの長い階段に、近頃閉口してきている。

正確に言えば3階と4階にあるので、たくさん買い物をしたときなど外階段を上がりきるとぜえはあと息が切れるのだ。エレベーターなどもちろん、ない。
その長い階段をものともせず、夏の初めから蟻がぞろぞろとキッチンにはいりこんできている。米粒ほどのハムが落ちたところがマックロになっていて、虫にはからきし弱いわたしをひえええと叫ばせることが多くなった。
それどころか、ゆきちゃんのごはんボウルの中にまで侵入してくるのだ。彼女は食べ方がバッチイので、ボロボロとドライフードをこぼし、齧っては飛ばし、したがって蟻は大喜びをしているらしい。

仕方がないので、大きめの皿の上に水をはり、その中にごはんボウルを置くようにしたが、「堀」があるにもかかわらず蟻がボウルの中でゴソゴソと動いている。
最近の蟻が泳げるとは知らなかった。
と思ったら先週あたりから、ゆきちゃんの猫ミルクボウルの中で、ミルクの表面のふちにまで蟻がずらっと並んでいる。
最近の蟻がミルクを飲むとは知らなかった。
そばで「運の悪い同僚」がミルクの中で溺死しているというのに、たくましいヤツラである。

運のいいひと、悪いひと

テレビを見ていたら、94歳で亡くなった隣人から十億円の遺産を贈られた農家の話をしていた。誰も彼がそんなものすごい金持ちだとは知らなかったそうで、身寄りのない彼の面倒を見ていた隣人もたいそうビックリしたことだろう。

しかし、誰もが一度は夢見る一攫千金が本当に起こることもあるのだ。
その反対の話もパースで実際にあった。

ある弁護士が、身寄りのない老女の住む海辺の素晴らしい家に眼をつけたのだ。何とかしてその家を安く手にいれたいと考えた彼は、老女に「これこれこのくらいの値段でその家を売ってくれれば、あなたが亡くなるまでタダで住んでいてもかまわないのですが」と話を持ちかけた。安いと言っても海辺の家である。結構な値段だろうし、老女も家にタダで住めてかなりの現金が手にはいるのなら、と家を譲り渡した。
弁護士のほうは、もちろん老女は長くてもあと10年ほどの命だろうとタカをくくったのだろう。ところがその目論見に反して、彼女はなんとエリザベス女王から100歳の誕生日に手紙までもらい、105歳で天寿をまっとうした。
かわいそうなのはその弁護士である。彼は待っても待っても死んでくれない老女にイライラしたであろうが、ついにその家に住むことなく、彼女より10年ばかり早く他界したそうだ。

運なんて、まったくどこに転がっているかわからないものである。